薬剤師がCRO・治験の仕事に移るとき、選択肢は大きく2つです。製薬会社側で治験をチェックするCRA(臨床開発モニター)と、病院側で治験を回すCRC(治験コーディネーター)です。
CRAの主な勤め先はCRO(開発業務受託機関)と製薬会社です。CRCはSMO(治験施設支援機関)から病院に出向く形か、病院に直接雇われる「院内CRC」です。「CROに行けばCRCになれる」わけではないので、求人を探す前にここを分けておくと迷いません。
どちらも薬剤師資格は必須ではありませんが、薬の知識はそのまま使えます。一方で調剤や服薬指導からは離れますし、年収は公的な統計がないので求人ごとに比べるしかありません。
先にお伝えしておくと、僕は調剤薬局とドラッグストア併設の調剤で働いてきた管理薬剤師で、CROやSMOで働いた経験はありません。この記事は、GCP省令(治験のルールを定めた厚生労働省令)と日本CRO協会・日本SMO協会の公開資料をもとに書いています。そこに、求人票を出す側・一次面接をする側として見てきた「求人の読み方」を足しています。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
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「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
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薬剤師が働くCROとSMOの違い:CRAとCRCの所属先
治験は、製薬会社(治験依頼者)が病院やクリニック(実施医療機関)に依頼して行います。この両側に、それぞれ業務を請け負う会社があります。
| CRO | SMO | |
|---|---|---|
| 立ち位置 | 製薬会社側 | 医療機関側 |
| 主な職種 | CRA | CRC |
| 働く場所 | 本社・担当施設 | 契約先の病院 |
| 業界団体 | 日本CRO協会 | 日本SMO協会 |
CROは製薬会社側の受託会社
CRO(Contract Research Organization)は、製薬会社から治験のモニタリングやデータ管理などを請け負う会社です。薬剤師がCROに入る場合、多くはCRAとして採用されます。
CROにはほかにも、データマネジメント(DM)、統計解析、メディカルライティング、安全性情報を扱うPV(GVP関連)などの職種があります。日本CRO協会の2025年年次業績報告では、会員28社の従業員17,076人のうちCRAが6,888人で、いちばん大きな職種です。
SMOは医療機関側の支援会社
SMO(Site Management Organization)は、病院やクリニックと契約して治験の実務を支える会社です。日本SMO協会の説明では、治験事務局の運営補助や治験審査委員会(IRB)の運営補助と並んで、CRCの教育と派遣が主な業務に挙げられています。
院内CRCという働き方もある
CRCには、SMOに所属して医療機関に出向く形と、病院に看護師・臨床検査技師・薬剤師として所属してCRC業務をする「院内CRC」の2つがあります(日本SMO協会「CRCとして働くには」)。
院内CRCは病院薬剤師の求人として出ることもあるので、「CRC」だけで検索すると見落とします。治験を多く扱う病院の薬剤部の求人も、あわせて見ておくと選択肢が広がります。
CRO業界の売上と人数は減少中
「治験は成長市場」と書かれることが多いのですが、業界団体の数字は少し違います。日本CRO協会の2025年報告では、会員の総売上高は2,168.3億円で前年より5.7%減、総従業員数は1,582人減りました。CRAも前年より213人減っています。
ただし中身を見ると、モニタリングの売上は前年より4.0%増えていて、減ったのは主にPV業務と派遣業務です。CRAの仕事がなくなっているわけではありませんが、「どこも人手不足で誰でも入れる」とも言えない、というのが公開データから読める範囲です。
CRA(臨床開発モニター)の仕事内容と薬剤師に合う点
GCP省令で決まるモニターの仕事
CRAの仕事は「モニタリング」です。GCP省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)の第21条・第22条に、何をするかの骨格が書かれています。
- 手順書に沿って施設を確認
- 原則は医療機関で実地に行う
- 違反を見つけたら医師に告げる
- 毎回の報告書を依頼者に出す
具体的には、治験が計画書どおりに進んでいるか、カルテなどの元の記録と症例報告書が合っているか、副作用などの報告が漏れていないかを確かめます。第21条には、他の方法で十分に確認できる場合は実地でなくてよいという、ただし書きもあります。リモートでの確認をどこまで使うかは会社や試験によって違います。
1週間の動きは担当施設で変わる
CRAの1週間は、担当する施設の数と場所でほぼ決まります。施設を訪問する日、社内で報告書やデータの確認をする日、会議の日が組み合わさる形です。
担当施設が遠方に散らばれば移動と宿泊が増えますし、近くにまとまっていれば日帰り中心になります。ここは会社ごと・プロジェクトごとに違うので、面接で「いま担当している人は、月に何日くらい施設に行っていますか」と聞くのがいちばん早いです。
CRAの求人で差が出る条件
CRAは企業勤務なので、シフト制の薬局とは休み方が変わります。ただ、休日や残業の実態は求人票の一行では分かりません。比べるときは次の項目を並べて見てください。
- 担当施設の数と地域
- 出張の頻度と移動の扱い
- 在宅勤務の可否
- みなし残業の有無と時間
- 未経験者の研修期間
とくに移動時間が労働時間として扱われるか、出張の日当があるかで、同じ年収でも手元に残る感覚はかなり変わります。
CRC(治験コーディネーター)の仕事内容と薬剤師に合う点
被験者と医師の間に立つ仕事
CRCは医療機関の中で、治験に参加する患者さん(被験者)と医師の間に立つ仕事です。治験の説明の補助、来院日の調整、検査のタイミング管理、症状の聞き取り、症例報告書の作成支援などを受け持ちます。
GCP省令では、医師の指導の下で治験に協力する薬剤師・看護師などを「治験協力者」と定義しています(第2条第18項)。CRCはこの立場で働くことが多く、患者さんと直接話す時間があるのは、薬局で服薬指導をしてきた人には入りやすいところだと思います。
医師・看護師・薬剤部との調整
CRCの一日は、人と人をつなぐ調整の連続です。医師の外来の枠、検査部門の予約、治験薬を管理する薬剤部、製薬会社側のCRAからの確認依頼が、同じ日に重なることもあります。
日本SMO協会は、薬剤師のCRCについて「薬剤部との調整などで力を発揮する」と書いています。処方の疑義照会で医師に電話をかけてきた経験や、在庫・期限の管理をしてきた経験は、ここでつながります。
CRCの働き方と資格制度
CRCになるのに必須の資格はありません。日本SMO協会も、看護師・臨床検査技師・薬剤師など医療系の資格や臨床経験がある人が担うことが多い、と説明しています。
働き始めてから取れる認定はあります。日本SMO協会の公認CRC試験は2005年に始まった制度で、協会の導入研修を修了し、2年以上の実務経験があることが受験の条件です。ほかに日本臨床薬理学会の認定CRCもあります。どちらも入社前に取るものではないので、未経験の段階で気にする必要はありません。
働く場所は契約先や勤め先の病院なので、CRAより出張は少なくなります。その分、担当する医療機関が変わると通勤先も変わるので、配属の決まり方は確認しておきたいところです。
薬剤師がCRA・CRCで活かせる経験と足りない経験
①英語の文書を読む力
日本CRO協会の2025年報告では、会員のモニタリングプロジェクト805件のうち391件(48.6%)が、複数の国で同じ計画書を使う国際共同試験でした。計画書や手順書を英語で読む場面は、調剤よりずっと多くなります。
どの程度の英語力を求めるかは会社や試験で違い、求人に目安の点数を書いている会社もあります。添付文書やインタビューフォームの英語版を読めるかどうかを、自分の基準にしてみると現実感がつかめます。
②医師・患者との調整力
CRAは治験責任医師や病院の治験事務局と、CRCは患者さん・医師・看護師と日常的にやり取りします。黙々と作業したい人には、どちらも向きにくい仕事です。
疑義照会で医師に「この用量で合っていますか」と確認してきた経験は、立場は違っても相手の時間を奪わずに要点を伝える練習になっています。面接で話すなら、この具体的な場面を1つ用意しておくと伝わりやすいです。
③出張と移動の許容度
CRAは担当施設への訪問が仕事の中心なので、出張や移動をどこまで受け入れられるかが大きな分かれ目です。子どもの送り迎えがある、家族の介護があるなど、動ける日が限られるなら、応募前に担当エリアの決め方を聞いておくべきです。
移動を減らしたいなら、医療機関に通う形のCRCのほうが合います。
④記録を正確に残す力
治験では、元の記録と報告書が合っていることが何より重視されます。CRCは確認される側、CRAは確認する側です。
治験ではありませんが、僕は管理薬剤師2年目に保険薬局の個別指導を1回受けています。前日に薬歴を全部直そうとして深夜まで残り、当日はいちばん頭が回りませんでした。記録は「あとで整える」ものではなく、その場で正しく残すものだと身にしみた経験です。調剤で毎日の鑑査や薬歴をていねいに積み上げてきた人は、この感覚をそのまま持ち込めます。
調剤薬剤師がCRA・CRCへ未経験で転職するときの現実
未経験で入る道はある
CRA・CRCとも、「治験未経験可」として研修から始める求人があります。薬剤師は薬理や添付文書の読み方をすでに身につけているので、治験の仕組みやGCPを学ぶところから入れます。
気をつけたいのは、未経験可の求人でも研修の長さと中身は会社によって違うことです。何か月の研修のあと、いつから1人で施設を担当するのかは、応募の段階で聞いておきたい点です。
年齢より求人の条件を見る
「未経験は何歳まで」という線は、公的な資料では示されていません。実際には会社ごとの採用方針で決まるので、年齢だけで諦めたり、逆に安心したりしないほうがいいと思います。
先ほどの日本CRO協会の数字のとおり、業界全体の人数は減った年もあります。未経験の枠がどれくらいあるかは時期で変わるので、求人に「未経験可」とあるか、応募資格に経験年数の条件があるかで判断するのが確実です。
年収は求人票で比べる
CRAやCRCの年収は、国の賃金統計に職種として出てきません。ネット上の「CRAは年収◯万円」という数字は、求人サイトごとの集計で、条件がそろっていません。
比べる相手は、自分の今の年収です。参考までに、薬剤師全体の平均は令和6年賃金構造基本統計調査から計算すると約571万円です(薬剤師の年収の目安で計算方法を書いています)。今の源泉徴収票と、求人の月給・賞与・手当・みなし残業を並べて、初年度にいくら変わるかを出してみてください。
調剤で管理薬剤師手当などが付いている人は、未経験で入ると役職の手当がなくなります。その分を差し引いて考えるのを忘れないでください。
求人票に書かれない5つ
僕はいまの薬局で、欠員が出たときに本部へ募集の依頼を上げ、応募してきた人の一次面接をしています。その立場で見ていると、求人票は嘘を書いていなくても、応募する側が本当に知りたいことが抜けていることがよくあります。
僕自身、2回目の転職で入った薬局を2か月で辞めています。あとで読み返した求人票に嘘はなく、失敗の原因は「書かれていなかったこと」を確かめなかった自分でした。CRA・CRCの求人でも、次の5つは面接で聞いておくのがおすすめです。
- 欠員補充か増員か
- 同じ部署の人数
- 研修の期間と中身
- 最初に担当する領域
- 配属先の決まり方
とくに1と2は、入ってすぐに任される量に直結します。答えにくそうにされたら、それ自体がひとつの材料です。
薬剤師がCRA・CRCに転職する前に知っておきたい注意点
①調剤・服薬指導から離れる
CRA・CRCとも、調剤や服薬指導は業務に入りません。薬の知識は使いますが、「薬剤師として患者さんに薬を渡す」仕事からは離れます。
今の不満が「調剤そのものに飽きた」のか「今の職場の人間関係や残業がつらい」のかで、答えは変わります。後者なら、業界を変えなくても職場を変えれば解決することがあります。薬剤師の仕事が同じことの繰り返しで飽きたときの切り分け方も、あわせて読んでみてください。
②臨床に戻るときの説明
何年離れたら調剤に戻れない、という決まりはありません。ただ、調剤から離れていた期間は、面接で必ず聞かれます。
一次面接をする側として言うと、ブランクそのものより「その間に何をしていて、なぜ戻りたいのか」が説明できるかを見ます。CRA・CRCで扱った領域や、医師とのやり取りの経験は、戻るときにも話せる材料になります。
③会社員としての評価
CROやSMOは企業なので、目標の設定、上司の評価、プロジェクトの異動といった、薬局とは違う物差しで働くことになります。担当する試験が終われば、次の試験に移ります。
薬局では処方箋の枚数や加算の算定で評価されてきた人も多いと思います。何で評価されるのかは、面接で率直に聞いてかまわない質問です。
薬剤師のCRA・CRC転職の相談先の選び方
CRA・CRCの求人は、CROやSMO各社の採用ページに直接出ていることが多いです。気になる会社がいくつか決まっているなら、まず採用ページで募集職種と応募資格を確かめるのが早いです。
一方、薬剤師向けの転職サイトは調剤・病院・ドラッグストアの求人が中心で、CRA・CRCの扱いはサービスによって差があります。登録するときは「CRA・CRCに興味がある」と最初に伝え、その職種の求人を実際に紹介できるかを聞いてください。
調べていくうちに「やっぱり臨床に残って、職場だけ変えたい」と思った人は、薬剤師向けの転職エージェントを比べたページが役に立つはずです。
薬剤師のCRA・CRC転職でよくある質問
- CROに入れば治験コーディネーター(CRC)になれますか?
-
CROで薬剤師が就く職種の中心はCRA(モニター)です。CRCの主な勤め先はSMO(治験施設支援機関)か、病院に直接雇われる院内CRCです。求人を探すときはCROとSMOを分けて見てください。
- CRAとCRC、薬剤師に向いているのはどちらですか?
-
出張や移動を受け入れられ、確認する側の仕事がしたいならCRA、患者さんと直接話しながら医療機関の中で働きたいならCRCが合います。家庭の事情で動ける日が限られるなら、CRCのほうが無理が少ないと思います。
- CRAやCRCに薬剤師資格は必要ですか?
-
必須ではありません。日本SMO協会も、CRCに特別な資格は要らないとしたうえで、看護師・臨床検査技師・薬剤師など医療系の資格がある人が担うことが多いと説明しています。薬の知識は、治験の意図を理解するうえで役に立ちます。
- 調剤からCRA・CRCに移ると年収は下がりますか?
-
一概には言えません。CRA・CRCの年収は国の統計に職種として出ていないので、今の源泉徴収票と求人の月給・賞与・手当・みなし残業を並べて比べるのが確実です。管理薬剤師手当などの役職手当がなくなる分は差し引いて考えてください。
- 英語ができないとCRAは無理ですか?
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無理ではありませんが、英語の文書を読む機会は多くなります。日本CRO協会の2025年報告では、会員のモニタリングプロジェクトの約半分が国際共同試験でした。求められる水準は会社や試験で違うので、求人の応募資格で確認してください。
- CRO業界の将来性はありますか?
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日本CRO協会の2025年報告では、会員の総売上高は前年より5.7%減り、CRAの人数も213人減りました。一方でモニタリングの売上は4.0%増えています。「伸び続ける市場」と決めつけず、応募する会社の募集状況を見て判断するのがいいと思います。
- CRA・CRCに行くと調剤に戻れなくなりますか?
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何年で戻れなくなるという決まりはありません。ただ、離れていた期間は面接で必ず聞かれます。その間に何をしてきて、なぜ戻りたいのかを説明できるようにしておけば、話は進めやすくなります。
- CRCの資格は入社前に取っておくべきですか?
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入社前に取るものではありません。日本SMO協会の公認CRC試験は、協会の導入研修の修了と2年以上の実務経験が受験の条件です。未経験の段階では、治験の仕組みやGCPの基本を知っておけば十分です。
薬剤師のCRO・CRC転職のまとめ
薬剤師が治験の仕事に移るなら、製薬会社側のCRA(主にCRO)か、医療機関側のCRC(主にSMOや院内)かを、まず分けて考えてください。出張を受け入れられるか、患者さんと話す仕事を続けたいかで、向く方がだいたい決まります。
年収は公的な統計で比べられないので、今の源泉徴収票と求人の条件を並べるのが確実です。そのうえで、欠員か増員か、研修の期間、配属の決まり方といった「求人票に書かれないこと」を面接で確かめてください。
製薬企業の営業職も比べたい人はMR薬剤師への転職、ほかの業界も含めて考えたい人は薬剤師の異業種転職や薬剤師の珍しい仕事もどうぞ。職場選びの基準をもう一度整理したい人は薬剤師の職場の選び方にまとめています。

