薬剤師からMRへの転職はできます。ただ、今は中途で未経験者を採る会社がかなり少ないのが実情です。
MR認定センターの「2025年版MR白書」では、MRの数は2024年度に4万3,646人。10年前より約3割減っています。中途採用をした会社の8割超は、他社のMR経験者を採っていました。
一方で、薬剤師資格にはMR基礎試験の科目が3つから1つに減るという、はっきりした利点があります。この記事では、公開されている一次資料をもとに、MRへの転職の難しさ、年収の見方、合わなかったときに調剤薬局へ戻る道まで整理します。
なお、僕は調剤とドラッグストアの経験しかなく、MRの経験はありません。現場の体験談ではなく、統計と制度から判断材料を並べる記事です。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
詳しい筆者の経歴はこちら
MRになった薬剤師の仕事内容
医師に情報を届けて集める
MR(医薬情報担当者)は、製薬企業の立場で医療機関を訪ね、自社の医薬品の情報を医師や薬剤師に伝える仕事です。MR認定センターは、MRの役割を「医薬品の適正使用情報を提供・収集すること」と説明しています。
「提供」だけでなく「収集」が入っている点が大事です。副作用などの安全性情報を現場から集めて会社に戻すのも、MRの仕事の一部です。
MR白書によると、2024年度のMRのうち、訪問せずWebや電話だけで活動するMRは472人でした。全体の1%ほどなので、今も医療機関を回る働き方が基本だと考えておくのが現実的です。
話せる内容はルールで決まる
MRは「営業」と呼ばれますが、何でも言ってよいわけではありません。厚生労働省の医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(2019年4月から適用)で、根拠のない比較や承認外の使い方を勧めることなどが禁じられています。
使う資料も社内の審査を通したものが基本です。薬剤師として「根拠を示して説明する」ことに慣れている人には、なじみやすいルールだと思います。
調剤との一番の違い
調剤薬局では、処方箋を持った患者さんが来てくれます。MRは、忙しい医師に時間をもらうところから始まります。
担当エリアを回るための移動や、会社の方針による異動もあります。勤務地の決まり方は会社ごとに違うので、求人票と面接で必ず確認してください。
薬剤師からMRへの転職が難しい理由
MRは10年で約3割減
2025年版MR白書によると、MRの数(管理職を除く)は次のように減ってきました。
| 年度 | MRの数 |
|---|---|
| 2014年度 | 6万4,657人 |
| 2019年度 | 5万7,158人 |
| 2023年度 | 4万6,719人 |
| 2024年度 | 4万3,646人 |
2024年度は前年度から3,073人減り、11年連続の減少です。白書は、MRを多く抱えてきた会社の早期希望退職の影響が大きかったとみています。
中途は経験者の採用が中心
同じ白書で、2024年度にMRを中途採用した会社は138社ありました。採用した人の前職(複数回答)は次のとおりです。
- 他社のMR:83.3%
- コントラクトMR:52.2%
- 他業界:16.7%
- 特約店関係者:8.0%
- 医療関係者:5.8%
薬剤師や看護師などの「医療関係者」を中途で採った会社は、138社のうち8社でした。調剤薬局の薬剤師がいきなり製薬企業のMRに入る道は、かなり細いと見ておくべきです。
新卒でMRを採用した会社は、回答198社のうち68社でした。年齢で何歳までと区切った公的な統計はありません。ただ、未経験から入るなら新卒・第二新卒の枠が一番広い、とは言えそうです。
薬剤師のMRは1割未満
薬剤師資格を持つMRは、2024年度で3,824人(MR全体の8.8%)。2014年度以降で最も多かった2016年度の6,446人から減り続け、白書は過去最低の人数としています。割合は9%前後でほぼ変わっていません。
MRの9割以上は薬剤師以外の人です。つまり、薬剤師資格は採用の条件ではなく、あくまで加点の材料という位置づけです。
薬剤師がMRに転職したときの年収の考え方
MRの年収の公的統計はない
「MRの年収は◯◯万円」という数字をよく見かけますが、MRだけを集計した公的な統計は見当たりません。MR白書も人数や教育の調査で、給与は扱っていません。そのため、この記事では相場の数字を出しません。
比べる側の薬剤師の数字は、公的統計で確認できます。
- 薬剤師全体:約571万円
- 病院の薬剤師:約581万円
- 薬局の薬剤師:約479万円
全体は令和6年賃金構造基本統計調査(所定内給与×12+賞与、残業代を除く)、業態別は第25回医療経済実態調査によります。まずは自分の今の年収が、この中でどの位置かを押さえておくと比べやすくなります。
求人で確かめたい内訳
MRの給与は、会社によって手当の付き方がかなり違うと言われます。提示額の合計だけで比べず、次の内訳を分けて確認してください。
- 基本給と賞与の割合
- 外勤の日当など手当
- 住宅補助と社用車
- 成果で変わる部分
- 転勤の範囲と頻度
手当が多い給与は、異動や働き方が変わると額も変わります。「どの条件が変わると、いくら減るか」まで聞いておくと、入社後のずれが小さくなります。
年収だけで決めない理由
これは僕自身の失敗からの話です。28歳のとき、年収550万円に惹かれてドラッグストア併設の調剤薬局に移りました。月の残業は45時間で、お金は増えたのに使う時間も気力もなくなりました。
MRは業態がまるごと変わる転職です。年収の額より先に、移動や異動、断られることが続く働き方を自分が続けられるかを考えたほうがいいと思います。
薬剤師資格がMR転職で活きるところ
MR基礎試験が1科目で済む
2026年4月からMR認定制度が変わり、試験は「MR基礎試験」になりました。科目は「医薬品情報」「疾病と治療」「医薬品産業と倫理・法規・制度」の3つです。
MR認定センターの試験概要によると、薬剤師は「医薬品産業と倫理・法規・制度」に合格し、有資格の登録をすれば試験合格になります。3科目のうち2科目が免除される形です。
試験は年2回、全国のテストセンターでのCBT方式です。受験できない人の条件はありますが、学生や社会人も受けられる仕組みになっています。
認定証には入社後の教育が要る
基礎試験に受かっただけでは、MR認定証はもらえません。認定企業での実務教育を受け、倫理や安全管理の行動が実地でできているかを確認されて、はじめて認定の申請に進みます。
MR白書では、2025年4月の新卒採用で「入社前にMR認定試験に合格していた人」を採った会社は6社・11人でした。事前の合格は珍しいぶん、志望の本気度を示す材料にはなりますが、合格したから採用されるものでもありません。
MRに向く薬剤師・向かない薬剤師
①医師との関係を育てられる
1回の訪問で処方が変わることはまずありません。何度も足を運び、「この人の話なら聞こう」と思ってもらうまでの時間に耐えられるかが問われます。
②移動と異動を受け入れられる
担当エリアを車や電車で回る日が続きます。家庭の事情で勤務地を変えられない人は、エリアの決まり方と異動の頻度を、応募前に必ず確かめてください。
③断られても次の手を考える
「今は忙しい」「必要な情報はもうある」と断られることは珍しくありません。それを受け流して、次に何を持っていくかを考え続けられる人が向いています。
④学び続けるのが苦でない
担当する薬の新しいデータ、競合品との違い、添付文書の改訂など、覚えることは途切れません。MR認定制度も、合格後に毎年の基礎教育の修了を求める形に変わりました。
逆に「患者さんと直接話す仕事が好き」「勤務地を固定したい」という人は、調剤や病院のほうが満足しやすいと思います。
調剤薬剤師がMRを目指すときの進め方
①応募できる枠を確かめる
製薬企業の採用ページで、中途採用が「MR経験者のみ」か「未経験可」かをまず見ます。経験者のみの会社が多いのは、先ほどの白書の数字のとおりです。
もう一つの入口が、製薬企業にMRを派遣・請負で出すCSO(医薬品販売業務受託機関)です。白書では2024年度に12社・4,249人のMRが所属していました。募集条件は会社ごとに違うので、各社の採用情報で確認してください。
②現役MRの話を聞く
職場の雰囲気や一日の動き方は、求人票からは読み取れません。これは僕が2回目の転職で職場見学を断り、入社2ヶ月で辞めたときに痛感したことです。
MRには職場見学がないぶん、大学の先輩や勉強会で知り合った現役MRに話を聞けるなら、それが一番の材料になります。聞くなら、担当エリアの広さ、異動の頻度、一日の訪問の組み方あたりが具体的でおすすめです。
③製薬業界の紹介会社も使う
薬剤師向けの転職エージェントは、調剤薬局・病院・ドラッグストアの求人が中心です。製薬企業の求人を探すなら、製薬・医療業界の求人を扱う人材紹介会社にも相談すると、見られる求人の幅が広がります。
その際は「未経験の薬剤師が応募できる求人が実際にあるか」を最初に聞いてください。ないと言われたら、それ自体が大事な情報です。
④志望動機を前向きに組む
「調剤に飽きた」「年収を上げたい」だけでは弱くなります。調剤で処方の意図が分からず困った場面や、医師に伝わっていない副作用の情報があった経験など、現場で感じたことから「情報を届ける側に回りたい理由」を組み立てるのがいいと思います。
MRから調剤薬局へ転職・復帰するときの確認点
薬剤師免許があれば戻れる
MRが合わなかった場合でも、薬剤師免許があれば調剤薬局や病院に移れます。MRへの転職を考えるとき、この「戻り道」があるのは薬剤師の大きな強みです。
もともとMRで、調剤薬局への転職を考えている人も同じです。調剤の経験がないことより、何を身につけたいかを話せるかのほうが大事だと思います。
面接する側が気にすること
僕は今、管理薬剤師として欠員が出たときの一次面接を担当しています。MRから来た人を面接するなら、次の3つを聞くと思います。
- 調剤から離れていた期間
- 研修をどう受けたいか
- なぜ調剤に戻るのか
ブランクがあること自体は、欠点だとは思いません。困るのは、入ってから「思っていた仕事と違う」となることです。医師や医薬品の知識をどう調剤に活かしたいかを具体的に言えると、面接する側は安心できます。
求人票で聞くべき3つ
僕の勤める会社では、求人票の文面を作るのは本部です。現場の実態までは書かれていないことがあります。僕が2ヶ月で辞めた薬局の求人票も、嘘はなかったのに、大事なことが書かれていませんでした。応募前に次の3つを確かめてください。
- 欠員補充か増員か
- 常勤の薬剤師の人数
- ブランク者の研修の有無
調剤薬局の求人を比べるなら、ファゲットは公式サイトで中小の調剤薬局や病院の求人を強みとして挙げています。僕自身は使っていませんが、MRから調剤に移る人や、MRと今の職場の条件を並べて比べたい人の相談先の候補になると思います。
ほかの会社とも見比べたい人は、薬剤師転職エージェントのおすすめで違いをまとめています。
薬剤師のMR転職でよくある質問
- 調剤の経験しかなくてもMRに転職できますか?
-
不可能ではありませんが、中途採用の枠は狭いです。2025年版MR白書では、中途採用をした138社のうち、医療関係者を採ったのは8社でした。未経験可の求人があるかを最初に確かめるのが近道です。
- 30代の薬剤師でもMRになれますか?
-
年齢の上限を示す公的な統計はないので、断定はできません。ただ中途採用はMR経験者が中心なので、年齢より「未経験で応募できる枠があるか」が先に壁になります。CSOを含めて募集条件を確認してください。
- MRになると年収は上がりますか?
-
会社と条件によります。MRだけの公的な年収統計はないので、提示額の内訳(基本給・賞与・手当・成果給)と、異動で手当がどう変わるかを確認して比べてください。
- MR認定の試験は転職前に受けるべきですか?
-
必須ではありません。薬剤師は基礎試験が1科目で済みますが、認定証を得るには入社後の実務教育が必要です。事前に受けるなら、志望の本気度を示す材料の一つと考えるのがいいと思います。
- MRと調剤薬局はどちらが安定していますか?
-
MRの数は11年連続で減っていて、2024年度は早期希望退職の影響もありました。薬剤師免許で働ける調剤薬局や病院の求人は、勤務地を選びやすいのが強みです。何を「安定」と考えるかで答えは変わります。
- MRに合わなかったら調剤薬局に戻れますか?
-
戻れます。薬剤師免許がある限り、調剤薬局や病院への道は残ります。戻るときは、ブランク者向けの研修があるかと、欠員補充か増員かを応募前に確認すると安心です。
- 面接で「なぜ調剤からMRに?」と聞かれたら?
-
「調剤が嫌だから」だけだと弱いです。調剤で感じた情報の行き違いなど、具体的な場面から「情報を届ける側に回りたい理由」を話せるように準備しておくのがいいと思います。
薬剤師からMRへの転職のまとめ
MRの数は10年で約3割減り、中途採用は他社のMR経験者が中心です。調剤薬局の薬剤師が未経験でMRになる道は細いと考えておくべきです。
それでも目指すなら、応募できる枠の確認、現役MRへの聞き取り、製薬業界の紹介会社への相談を並行して進めてください。薬剤師はMR基礎試験が1科目で済み、合わなければ調剤に戻る道もあります。
ほかの道も比べたい人は、CRO・治験の仕事への転職、薬剤師の珍しい仕事、薬剤師の異業種転職もどうぞ。

