「薬剤師は人手不足と言われるのに、飽和とも言われる。なのにうちの職場はずっと欠員」。この矛盾の答えから書きます。
全国の人数で見ると、薬剤師は今のところ需要と供給がほぼ釣り合っていて、将来は余る見込みです。一方で、地方や病院、特定の店には足りていません。全国の話と、あなたの職場の欠員は別々に成り立つんですよね。
僕は地方の調剤薬局で管理薬剤師をしている、たろうです。薬剤師歴10年目で、欠員が出たときに本部へ募集を上げ、応募者の一次面接をする側にいます。
この記事では、厚労省の需給推計と偏在指標で「足りる・足りない」の中身を確かめたうえで、募集を出す側から見た「人が埋まらない店」と、足りている職場の見分け方を書きます。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
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薬剤師は人手不足なのか、飽和なのか
「薬剤師は人手不足」は半分正しくて、半分ずれています。全国の総数では足りていて、足りないのは場所と職場ごとの偏りです。
- 全国の総数は当面ほぼ均衡
- 2045年は最大12.6万人の過剰推計
- 地方・病院・店ごとの偏りが大きい
根拠は、厚労省の検討会で示された薬剤師の需給推計です。2020年の需要は32.0万人、供給は32.5万人で、ほぼ同じ水準でした。
2045年の需要は33.2万〜40.8万人、供給は43.2万〜45.8万人と推計されています。いちばん差が開く組み合わせで、約12.6万人の供給過剰になる計算です。
注意したいのは、推計自体が「当面は需要と供給は同程度で推移」と書いている点です。今もう余っているのではなく、この先余っていく見込み、が正確な読み方です。
需要の幅が大きいのは、在宅や服薬後のフォローなど業務が増える場合と、今の業務量のままの場合で計算を分けているからです。どちらの場合でも、将来は供給が上回るとされています。
悩む男性余るって聞くと、なおさら意味がわからないです。うちは万年欠員なのに…。



その感覚は正しいです。「全国の総数」と「あなたの店の不足」は、別々に成り立つんですよ。
薬剤師が全国で足りても現場で足りない訳
総数が足りていても現場が足りないのは、薬剤師が均等に散らばっていないからです。偏りは3つの方向で起きています。
- 地域差(都市に多く地方に少ない)
- 業態差(病院は全国で不足)
- 同じ会社でも店ごとの差
都市は多く地方は足りない
地域の偏りは、厚労省が2023年6月の事務連絡で示した薬剤師偏在指標で確かめられます。業務量に対して薬剤師が足りているかを表す数字で、1.0を下回ると「足りていない」側です。
薬局薬剤師の値は、東京1.42・神奈川1.25と都市部で高く、青森0.88・福井0.73のように地方で低く出ています。47都道府県のうち28で1.0を下回っていました。
総数の「余り」には、都市に人が集まっている分も含まれています。地方で働いていて「余っている実感はゼロ」と感じるのは、数字のうえでもそのとおりなんです。
病院は全都道府県で1.0未満
業態で見ると、差がはっきりしているのが病院です。同じ偏在指標で、病院薬剤師は全国0.80。すべての都道府県で1.0を下回っています。いちばん高い東京・京都・徳島でも0.94でした。
薬局薬剤師の全国値は1.08なので、「薬局はおおむね足りていて、病院は全国的に足りない」という構図です。病院勤めで人が足りないと感じているなら、それはあなたの病院だけの話ではありません。
同じ会社でも足りる店・足りない店
いちばん身近なのが店ごとの差です。同じ会社の同じエリアでも、人が回っている店と、いつもぎりぎりの店があります。
辞める人が多い店、通いにくい店、待遇が見劣りする店には人が集まりません。会社全体で人数が足りていても、そのしわ寄せは残っている人にかかります。
地域でも業態でも説明がつかない欠員なら、業界より職場側に原因がある可能性が高いです。次で中身を見ていきます。
自分の職場だけ薬剤師が足りない本当の理由
自分の職場だけ慢性的に足りないなら、その職場が人を集められていないか、入った人が定着していないサインのことが多いです。
- 採用力が弱い(応募が来ない)
- 定着率が低い(すぐ辞める)
- 立地が不利(通いにくい)
- 待遇が弱い(給料・休み)
先に言っておくと、これはあなたを責める話ではありません。逆で、足りない原因の多くはあなたの頑張りの外にある、という話です。
処方箋40枚に1人は最低ライン
自分の店が本当に足りないのかは、ざっくり計算できます。薬局の体制を定めた省令では、調剤する薬剤師の数を「1日平均の処方箋枚数÷40」以上にするよう決めています。
たとえば1日平均120枚の店なら3人以上です。眼科・耳鼻科・歯科の処方箋は3分の2枚として数えます。
ただ、これは法令上の最低ラインです。在宅や服薬後のフォロー、休憩や有給の分は、この計算に入っていません。基準ぎりぎりの人数では、誰か1人休むだけで回らなくなるのは当然なんです。
採用力と定着率が弱い店の特徴
人が足りない店は、たいてい「入ってこない」か「入ってもすぐ抜ける」のどちらかです。根が深いのは後者です。
雰囲気が悪い、教え方が雑、残業が当たり前。こういう店は採っても定着しないので、欠員が埋まらないループに入ります。管理薬剤師の立場だと、新人が辞めればその穴はまず自分のシフトで埋めることになります。
皮肉なのは、真面目に穴を埋める人がいる店ほど改善されにくいことです。回ってしまっているので、会社が人を増やす理由が見えにくくなります。



うちが変わらないの、まさにそれかも。僕が無理して回してるから放置されてる…。
立地と待遇で人が集まらない
あとは立地と待遇です。駅から遠い、車が必須、給料が近隣より低い、日曜が休めない。こうした店はそもそも応募が集まりにくいです。
厄介なのは、どれも現場の努力では動かせないことです。立地も基本給も、店にいる人が変えられるものではありません。



私が力不足だから回らないんだと、ずっと思ってました…。



力不足じゃないです。人が定着しない店で、今いる人が耐えているだけ。それは構造の問題です。
欠員募集を出す側から見た、薬剤師が埋まらない店
ここは、募集を出す側にいる僕だから書けることです。僕の会社では、退職者が出ると店から本部へ欠員の連絡を上げ、本部が求人原稿を作ります。
店から上げるのは、次の3つだけです。
- 欠員の理由
- 希望する勤務時間帯
- 常勤かパートか
上がってきた原稿を見て、「うちの残業はこんなに少なくない」と思ったこともあります。でも原稿を書き換える権限は店にありません。
つまり、欠員の事情や店の忙しさは、求人票にはほとんど出てこない仕組みです。これは僕の会社の話ですが、本部が原稿を作る会社なら似たことは起きうると思います。
求人票を読む側だった頃の失敗もあります。2ヶ月で辞めた調剤薬局Cの求人票は、後で読み返すと嘘は1行もありませんでした。問題は、書かれていなかったことです。
- 常勤薬剤師が何人いるか
- 欠員補充か増員か
- 前任者がいつ辞めたか
当時の僕は、職場見学の提案を「日程が合わない」と自分から断っていました。求人票に騙されたのではなく、確かめなかったんです。
今は面接する側なので、応募者にこの3つを聞かれたら答えられます。聞きにくい質問に見えて、店にとっては答えられて当然の内容です。
薬剤師が足りない職場に居続けるとどうなるか
人手不足の職場に居続けたときに起きやすいことを、先に見ておきます。
- 有給がまともに消化できない
- 残業が当たり前になる
- 一人薬剤師の時間が増える
- 学ぶ余裕がなくなる
まず有給です。取ろうとしても「誰が入るの?」で止まり、休みの相談がそのまま罪悪感になっていきます。
次に残業。足りない人数の分の処方箋は消えないので、誰かが残って捌くことになります。有給や残業の各論は薬剤師が有給を取れないときの話にまとめています。
いちばんきついのが一人薬剤師の時間が増えることです。ミスの怖さも、休憩が取れないことも、1人で抱えることになります。
一人薬剤師のしんどさそのものは一人薬剤師がきつい理由で詳しく書いたので、今まさにそれという人はそちらも読んでみてください。
地味に効くのが、学ぶ余裕がなくなることです。目の前を捌くので精一杯だと、在宅や新しい業務を覚える時間が取れません。
薬剤師の僕が激務の職場を抜けて分かったこと
28歳のとき、年収に惹かれてドラッグストア併設の調剤に移りました。調剤にOTCの接客、レジ、品出しまであって、閉店後の品出しで帰りは夜10時。月の残業は45時間でした。
そこに2年いて、早く抜けたい一心で選んだ次の調剤薬局Cは、入社2ヶ月で辞めています。前の章で書いたとおり、見学を断って確かめずに決めた結果です。
3回目の転職では、条件より職場の雰囲気を優先して、応募前に必ず見学を入れました。そうして入ったのが今の職場です。残業が減って、娘の寝顔を見られる日が増えました。
振り返ると、しんどさは「薬剤師だから」ではなく、その職場の働き方から来ていました。今の職場を変えるのは難しくても、次の職場を選ぶときの確かめ方は自分で変えられます。
薬剤師が足りてる職場の見分け方
人が足りている職場かどうかは、求人票ではなく見学と面接で確かめます。聞くことは次の5つです。
- 常勤薬剤師の人数
- 1日の平均処方箋枚数
- 欠員補充か増員か
- 前任者がいつ辞めたか
- 募集がいつから出ているか
人数と処方箋枚数が分かれば、さっきの「÷40」で余力が見えます。最低ラインちょうどの店は、1人休むだけで回らなくなる店です。
「アットホームな職場」のような言葉は、判断材料になりません。長く同じ募集が出ている店は、人が定着しない理由があるかもしれないので、理由まで聞いてみてください。職場の見極め方の全体像は薬剤師の職場選びのコツにまとめました。
自分で聞きにくいなら、転職サービスの担当に確認してもらう方法もあります。たとえばMC-ファーマネットは、公式のQ&Aで、職場の雰囲気や人間関係の情報を伝え、担当者が職場見学や面接をセッティングすると案内しています。僕自身は使っていませんが、見学で確かめたい人には合う使い方です。
今すぐ転職しなくても、ほかの職場の人数や条件を知っておくと、今の職場に残るかどうかを冷静に考えられます。
薬剤師の人手不足でよくある質問
最後に、人手不足の話で出てきやすい疑問に答えておきます。
- 人手不足なのに給料が上がらないのはなぜ?
店単位で足りなくても、会社全体では人件費を抑えたいことが多いからです。回っているうちは待遇を上げる理由が見えにくく、据え置かれがちです。上げてほしいなら、ほかの職場の条件を知ったうえで交渉するか、待遇のいい職場へ移るのが現実的です。
- 一人薬剤師はやっぱりきついですか?
きついです。休憩が取りづらく、ミスの怖さも1人で抱えます。人手不足の結果として一人の時間が増えているなら、頑張りで解決する話ではないので、環境ごと変えることを考えていいと思います。
- 人手不足の職場を辞めるのは無責任ですか?
無責任ではありません。人員を確保するのは会社の役割で、あなた1人が抱える義務はありません。辞めると回らないなら、その人数で回す設計に無理があったということです。引き継ぎと退職の申し出を丁寧にすれば、自分の健康と生活を優先していいです。
- 薬剤師の売り手市場はいつまで続きますか?
厚労省の需給推計では、全国の総数は当面ほぼ均衡し、将来は供給が需要を上回る見込みです。一方で、偏在指標では病院は全都道府県で、薬局も地方を中心に1.0を下回っています。全国一律の売り手市場ではなく、地域と業態で差が広がっていくと考えるのが近いと思います。
人が足りない店で最初にしわ寄せを受けるのは、入ったばかりの人です。新人薬剤師が教えてもらえないのは放置かどうかの判定では、処方箋の枚数から教える余力があるかを計算する方法を書いています。逆に人が余っている日に真っ先に調整されるのはパートの時間なので、そちらは薬剤師パートの早上がり・シフトカットへの対処のほうにまとめました。
まとめ:薬剤師が足りてる職場に移っていい
- 総数は当面均衡・将来は過剰
- 地方と病院は指標でも不足
- 処方箋40枚に1人は最低ライン
- 求人票に欠員の事情は出にくい
- 見学で人数と欠員の理由を聞く
- 辞めるのは無責任じゃない
今しんどいのは、能力の問題でも甘えでもなく、人が定着しない職場で今いる人が耐えているからかもしれません。まずそこを、自分で認めてあげてほしいです。
その職場に居続ける義理はありません。人が足りている職場は確かにあって、見学と面接で聞けば見分けられます。
「眠れない・食欲がない・朝動けない」といったサインが出ているなら、なおさら早めに。壊れてから動くと選択肢が減ります。
動くと決めたときの情報集めには、薬剤師転職エージェントのおすすめランキングを置いておきます。転職の進め方全体は薬剤師の転職の全手順にまとめました。






