薬剤師になりたい理由が「手に職がほしい」「化学が得意」くらいしかなくても、大丈夫です。現役の薬剤師にも、最初はそのくらいの理由だった人はたくさんいると思います。
面接や志望理由書で困るのは、理由が薄いことではありません。「なぜ医師や看護師ではなく薬剤師なのか」を、自分の場面で話せないことです。
僕は地方の調剤薬局で管理薬剤師をしている、たろうです。店で薬剤師を採用するときは、応募者の一次面接を担当しています。僕自身の理由も、祖母への憧れと「手に職がほしい」が半々でした。
この記事では、よくある動機と僕の本音、面接をする側から見た志望動機の見え方、薄い動機を自分の言葉にする手順と例文をまとめます。6年制の学費や国家試験の数字も、進路を決める前に知っておいてほしいので載せました。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
詳しい筆者の経歴はこちら
薬剤師になりたい理由でよくある4つの動機
まず「ほかの人はどんな理由で目指しているの?」から答えます。進学サイトの例文や、薬剤師の志望動機としてよく挙がるものは、だいたい次の4つに分かれます。
- 手に職・安定がほしい
- 家族や自分の病気・薬の体験
- 化学や生物が得意
- 親や先生に勧められた
どれも特別な使命感ではありません。ひとつずつ、面接でどう扱えばいいかも含めて見ていきます。
手に職・安定がほしい
国家資格があれば、引っ越しや出産のあとも働き口を探しやすい。これは打算ではなく、生活を守るための現実的な理由です。
ただ、面接でこれだけを言うと「資格なら何でもよかったのでは」と受け取られます。看護師や臨床検査技師も国家資格だからです。なぜ薬なのか、を一段足す必要があります。
家族や病気の体験がきっかけ
祖父母がたくさんの薬を飲んでいた、家族が入院した、自分が持病の薬を飲んでいる。こうした体験は、そのまま「なぜ薬剤師か」の答えになりやすい動機です。
ドラマのような出来事である必要はありません。薬局で見た一場面くらいの小さな話で十分です。僕の理由もここに入ります。
化学が得意・親に勧められた
「化学が得意だった」「親に向いていると言われた」は、消去法に近い動機です。後ろめたく感じる人も多いと思います。
ただ、得意科目は6年間の勉強を続けるうえで立派な強みです。勧められた場合は、言われて自分でも何を調べたか、どこに納得したかを話せれば、自分の動機になります。
僕が薬剤師になりたかった理由は祖母と手に職の半々
ここは僕の本音です。
高校生のころ、祖母が10種類以上の薬を飲んでいました。量が多くて、祖母はいつも不安そうでした。
そんな祖母に、かかりつけ薬局の薬剤師さんが薬のことをかみ砕いて説明してくれていました。話を聞いたあとの祖母は、安心した顔をしていました。
薬で人の不安を安心に変える仕事がある。それに憧れたのが半分です。
残りの半分は「手に職をつけて安定したい」という本音でした。人に言いづらいほうの理由ですが、進路を決めるときにはこちらも同じくらい効いていました。
私立の薬科大の6年制に奨学金を借りて通い、24歳で卒業しました。国家試験は1回で受かり、合格の報告は親より先に祖母へ電話しています。
管理薬剤師たろう半々の理由でも、10年続けてこられました。理由の濃さより、その理由を自分で分かっているかのほうが大事だと思います。
薬剤師になりたい理由が薄くても問題ない3つの理由
「自分の動機は薄っぺらいかも」と不安な人へ。薄くても目指していいと僕が考える理由は3つあります。
最初の動機はみんな普通
入学前から「地域医療に貢献したい」と本気で思っている高校生は、多くないはずです。薬学部に入る時点では、ほとんどの人が薬剤師の仕事を外から見たことしかありません。
薄く感じるのは、例文集の言葉と比べているからです。比べる相手を間違えているだけだと思います。
立派な理由は後から育つ
「患者さんの不安を減らしたい」のような理由は、実務実習や仕事で患者さんと話すうちに中身が伴ってきます。
僕の「不安を安心に変えたい」も、高校生のときは憧れの言葉でした。現職でかかりつけ薬剤師として患者さんを受け持つようになって、ようやく自分の仕事の話として語れるようになりました。
続ける力と動機の濃さは別
強い使命感で入った人ほど、理想と現場の差に苦しむこともあると思います。反対に「安定がほしかった」人が、淡々と長く続けていることもあります。
僕が働いてきて感じるのは、続けられるかどうかは動機の濃さより、どんな職場で働くかに左右されるということです。これは後半の「なってみて満たされるか」で触れます。
薬剤師の一次面接をする僕が志望動機で見ているところ
ここからは、店で薬剤師の一次面接をしている管理薬剤師としての考えです。僕が面接するのは免許を持つ薬剤師の採用で、大学入試の面接官をした経験はありません。
それでも「志望動機のどこで伝わるか」は、受験の面接や薬学生の就活でも大きくは変わらないと思っています。見ているのは次の3つです。
なぜ薬剤師かが言えるか
「人の役に立ちたい」は、医療職ならどの職種にも当てはまります。聞く側としては、その先の「だから薬なのか」が知りたいところです。
たとえば「診断や処置より、飲み続ける薬の説明で支えたい」のように、ほかの職種との違いを一言入れてもらえると、動機の輪郭がはっきりします。
自分の場面が1つあるか
理由の大きさは気にしていません。気にするのは、本人が実際に見たこと・感じたことが1つ入っているかです。
「祖母の薬の説明を横で聞いていた」くらいの場面で十分です。場面があると、続けて質問しても答えが崩れません。借りてきた立派な話は、2つ目の質問で詰まりやすいと感じます。
仕事の中身を知っているか
薬剤師の仕事は、患者さんへの説明だけではありません。調剤と監査、薬歴の記録、在庫の管理、保険のルールとの付き合いが毎日の大半です。
憧れの場面に加えて、地味な部分も知ったうえで目指していることが伝わると、話を聞く側は安心します。仕事の中身は薬剤師の仕事内容にまとめています。
薬剤師になりたい薄い理由を面接・志望理由書で使える形にする方法
「薄くていいのは分かった。でも面接や志望理由書では何か書かないといけない」。ここが一番困るところだと思います。嘘をつかずに整える手順と、例文を置いておきます。
薄い動機を深める3ステップ
やるのは動機を盛ることではなく、掘り下げることです。
- きっかけの場面を1つ出す
- そのとき感じたことを足す
- 薬剤師でしたいことに繋ぐ
「安定したい」が本音なら、それを隠す必要はありません。3で「資格を生かして、地域で長く働き続けたい」と、将来の働き方に言い換えれば十分です。
場面が思い出せない人は、一度近くの薬局で薬剤師さんの仕事を見てみるのも手です。見学の話でも、自分で見た場面になります。
動機別の例文3つ
3ステップで組み立てた例です。場面の部分は、必ず自分の体験に差し替えてください。
手に職・安定型
「国家資格を持って長く働ける仕事に就きたいと考えていました。祖母の通院に付き添ったとき、薬剤師さんが飲み方を丁寧に説明している姿を見て、薬の専門家として地域で長く患者さんを支えたいと思い、薬剤師を志望しました。」
家族の体験型
「家族が入院したとき、退院後の薬が増えて飲み方に戸惑っていました。薬剤師さんに整理してもらって安心した様子を見て、薬の説明で患者さんと家族の負担を減らせる薬剤師になりたいと考えました。」
得意科目型
「化学が得意で、学んだことを人の健康に直接生かせる仕事を探していました。薬が体の中でどう働くかを学び、その知識を患者さんに分かる言葉で伝えられる薬剤師になりたいです。」
どれも使命感は控えめです。それでも「なぜ薬剤師か」と「自分の場面」が入っているので、続けて質問されても自分の言葉で答えられます。



これなら本音のまま、嘘なく書けそうです。
面接でやりがちなNG例
- 「人の役に立ちたい」で終わる
- 例文を丸ごと写す
- 体験を大きく盛る
- 「安定」だけで止める
共通するのは、深掘りの質問に答えられなくなることです。立派な言葉より、小さくても具体的な自分の話のほうが面接では強いと思います。
薬剤師になりたい理由はなってから満たされる?6年制と仕事の現実
薄い動機で目指していいのは本当です。ただ、進路を決める前に知っておいてほしい数字と現実もあります。
学費と6年、国家試験の数字
薬剤師国家試験を受けられるのは、薬学部の6年制課程を卒業した人です(薬剤師法 第15条)。同じ薬学部でも4年制の学科では受験できません。
学費は、国立が国の標準額で6年間約350万円です。私立は文科省の令和7年度 私立大学の学生納付金等調査の薬学部平均で計算すると、6年間で約1,090万円になります。実習費や教科書代は別です。
国家試験は、第111回(2026年3月発表)で全体の合格率が68.49%、6年制の新卒が86.25%でした。
見落とされやすいのは、6年で卒業できるかどうかです。文科省の薬学部における修学状況等では、2019年度に私立の6年制へ入学した人のうち、6年ちょうどで国家試験に受かったのは56.8%でした(国立は80.0%)。
志望校を選ぶときは、偏差値や学費と一緒に、大学ごとに公表されている「6年での卒業率・合格率」も見てください。道のり全体は薬剤師になるにはで、社会人から目指す場合は30代から薬剤師を目指すのは遅い?で詳しく書いています。
年収は安定だが青天井ではない
厚労省の令和6年賃金構造基本統計調査で計算すると、経験1〜4年の薬剤師の年収は約493万円です(残業代を除く)。
僕の1年目は、地方の内科門前の調剤薬局で約380万円と、この平均より低めでした。4年目で420万円。昇給は1回あたり月額5千〜1万円ほどで、「安定」はしていても大きくは増えませんでした。
手に職・安定という動機は、なってみて満たされた部分です。ただ年収を大きく上げるには、管理薬剤師になるなど働き方を変える必要がありました。年次ごとの話は薬剤師1年目の給料・年収や薬剤師10年目の年収にあります。
働きやすさは職場で変わる
同じ薬剤師でも、職場によって働き方はまったく違います。僕は28歳で移ったドラッグストア併設の調剤薬局で、月45時間の残業をしていました。
30歳で焦って移った次の薬局は、雰囲気が合わず2ヶ月で辞めています。職場見学の提案を自分から断っていて、確かめずに決めたのが原因でした。
いまの薬局では管理薬剤師になり、かかりつけ薬剤師として患者さんを受け持った時期もあります。祖母に憧れた「不安を安心に変える」仕事を、ようやく自分の仕事として感じられるようになったのはここからです。
遠回りはしましたが、薬剤師になったこと自体は後悔していません。後悔したのは動機の薄さではなく、焦って職場を選んだことでした。いきさつは自己紹介記事に書いています。
薬剤師になりたい理由に関するよくある質問
- 志望理由が「お金・安定」だけだとダメですか?
-
本音としては問題ありません。ただ面接では「資格なら何でもよかったのでは」と思われやすいので、なぜ薬なのかを一段足すと伝わります。
- 祖父母の話を志望理由に使ってもいいですか?
-
使って大丈夫です。僕の原点も祖母です。「そのとき何を見て、どう感じたか」まで話せると、ありがちな話で終わりません。
- 「なぜ医師や看護師ではなく薬剤師?」と聞かれたら?
-
ほかの職種との違いを一言で言えるようにしておきます。たとえば「飲み続ける薬の説明で、生活の中の治療を支えたい」のように、薬剤師の役割に結びつけると答えやすいです。
- 志望理由が薄いと、なってから後悔しますか?
-
後悔する人はいると思いますが、原因は動機の薄さより職場選びや仕事の中身とのずれのことが多いと感じます。僕も半分は安定目当てでしたが、薬剤師になったことは後悔していません。
- 薬学部の学費はどのくらいかかりますか?
-
6年間で国立は約350万円、私立は文科省の平均額で計算すると約1,090万円です。実習費や教科書代は別にかかります。
- 文系でも薬学部を目指せますか?
-
目指せますが、入試と入学後の授業で化学・生物・数学が必要です。理系科目の学び直しの時間を計画に入れておくと安心です。
薬剤師になりたい理由が薄いと悩む人へのまとめ
薬剤師になりたい理由は、薄くても大丈夫です。僕も祖母への憧れと手に職が半々でした。
- 手に職・安定は普通の動機
- 面接では「なぜ薬剤師か」
- 自分の場面を1つ入れる
- 6年と学費の現実も知っておく
面接で見られているのは、理由の立派さではなく、自分で見たことを自分の言葉で話せるかだと僕は思います。まずはきっかけの場面を1つ、紙に書き出すところから始めてみてください。
薬剤師のいいところと大変なところを先に知っておきたい人は、薬剤師のメリット・デメリットも読んでみてください。









