30代からでも薬剤師は目指せます。年齢の上限はありません。ただ道は1本だけで、薬学部の6年制課程を卒業して、国家試験に合格することです。
30歳で入学すれば、ストレートで進んでも薬剤師になるのは36歳の春です。学費は国立で約350万円、私立だと約1,090万円。30代にとっては、これに6年分の収入が加わります。
もうひとつ知っておいてほしいのは、壁は入試より「6年で卒業して受かる」ことのほうにある点です。私立の薬学部では、入学者のうち6年ちょうどで国試に受かった人は6割に届いていません。
僕は地方の調剤薬局で管理薬剤師をしている、たろうです。私立薬科大の6年制を奨学金を借りて24歳で卒業し、国試は1回で受かりました。いまは店の欠員募集で応募者の一次面接をする側にいます。
この記事では、厚労省と文科省の数字で費用と6年間の壁を確かめたうえで、30代後半〜40代で新卒になった人を採用する側がどう見るかを書きます。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
詳しい筆者の経歴はこちら
30代から薬剤師になるには薬学部6年制が必須
薬剤師国家試験を受けられるのは、大学で薬学の6年制課程を卒業した人です(薬剤師法 第15条)。ほかの学部を出ていても、4年制の薬学科を出ていても、この条件は満たせません。
資格の講座や専門学校で取れる道はなく、授業と実習は昼間の通学が前提です。「今の仕事を続けながら」は現実的ではなく、仕事を辞めて学生に戻る前提で考える必要があります。
何歳で薬剤師になれるか
国家試験は6年生の2月にあり、合格発表は3月です。留年せずに進んだ場合、入学した年齢に6を足した歳の春に薬剤師として働き始めます。
- 30歳で入学→36歳で就職
- 33歳で入学→39歳で就職
- 35歳で入学→41歳で就職
- 38歳で入学→44歳で就職
ここに受験勉強の期間と、留年があればその年数が加わります。65歳まで働くとすると、30歳入学なら薬剤師として働けるのは約29年です。
6年間で何をするのか
前半は化学・生物・物理を土台にした講義と実験が中心です。4年生で実務実習に出るための共用試験を受け、5年生で薬局と病院の実務実習に出ます。6年生は卒業研究と国試の勉強です。
実習の期間は平日に薬局や病院へ通うので、その間は働いて稼ぐ時間がほぼ取れません。30代で入る人は「6年間は学業が本業」と考えて家計を組んだほうが安全です。
30代が薬学部に入る3つのルート
社会人が薬学部に入る方法は、大きく分けて次の3つです。どれが使えるかは大学ごとに違うので、最後は必ず募集要項で確かめてください。
- 一般選抜(高校生と同じ入試)
- 社会人選抜
- 編入学
一般選抜:高校生と同じ試験
いちばん枠が多いのは一般選抜です。年齢で不利になる仕組みはありませんが、化学・数学・英語などを高校生と同じ土俵で解くことになります。理系科目から離れている人は、学び直しの期間を計画に入れておく必要があります。
文科省の薬学部における修学状況等(2025年度調査)では、私立大学6年制の実質競争倍率は平均2.1倍、入学定員の充足率は91.2%でした。国立は倍率3.0倍です。私立は大学を選べば、入ること自体は極端に狭き門ではありません。
社会人選抜:一部の私立に若干名
社会人向けの選抜を置いている私立大学もあります。たとえば第一薬科大学の社会人選抜は、面接(口頭試問あり)と課題文で選ぶ方式で、募集は若干名です。
学科試験の負担は軽くなりますが、入ったあとの授業と国試は一般選抜の学生と同じです。入り口が楽だったぶん、1〜2年生の化学や生物で苦しくなる可能性は頭に置いておいてください。
編入学:理系の単位が前提
大学を出ている人向けの編入学もあります。ただ条件はかなり絞られています。
- 東邦大学:1年次への編入
- 第一薬科大学:2年次への編入
東邦大学は大学卒業などに加えて、薬学部1年次の必修に相当する単位を取っていることが条件です。第一薬科大学の2年次編入は、薬学・理学・工学などの系統で1年以上学び、2年次に上がる基準の単位を持つ人が対象です。
文系の学部を出た人は、この単位の条件を満たしにくいはずです。「大卒だから短くなる」とは考えず、6年間通う前提で計画しておくほうが外れません。
30代から薬学部に通う学費と6年分の収入
学費は国立と私立で約3倍
国立大学は国が示す標準額で、授業料が年53万5,800円、入学料が28万2,000円です。6年間で約350万円になります。
私立は大学ごとに違います。文科省の令和7年度 私立大学の学生納付金等調査では、薬学部の平均は授業料が年約141.9万円、施設設備費が年約33.8万円、入学料が約32.6万円でした。
この平均額が6年間続くとして計算すると、私立は6年間で約1,090万円です。実験実習料や教科書代、国試対策の費用は別にかかります。
一番大きいのは6年分の収入
高校生と違って、30代は学費より「働いていれば入ってきたお金」のほうが大きくなりがちです。生活費は学生になっても減りません。
仮に今の年収が400万円なら、6年間で2,400万円の収入がなくなります。私立の学費約1,090万円と合わせると、約3,500万円を先に出す計算です。
仮に卒業後、今より年150万円多く稼げたとしても、取り戻すには20年以上かかります。お金だけで見ると、今の年収が高い人ほど割に合いにくいのは確かです。「それでも薬剤師の仕事がしたい」という理由が、自分の中にあるかどうかが分かれ目になります。
奨学金は条件を先に確認
僕自身、私立の6年制を奨学金を借りて卒業しました。返済の残りは、いまもまだ多めです。
30代で借りる場合、卒業時には36歳以上で、そこから返済が始まります。日本学生支援機構の貸与奨学金は、収入や学力の基準、申込みの時期が決まっています。入学を決める前に、自分が対象になるかと、月々いくら返すことになるかを確かめてください。
30代から薬剤師を目指すときの本当の壁は6年での卒業
「国試の合格率は8割台」と聞くと、入ってしまえば何とかなりそうに思えます。でも、その数字だけでは足りません。
新卒86%・既卒41%の国試
厚労省が2026年3月に発表した第111回薬剤師国家試験の結果は次のとおりです。
- 全体:68.49%
- 6年制の新卒:86.25%
- 6年制の既卒:41.33%
一度落ちると、合格率は4割ほどまで下がります。浪人の1年は、30代にとってはそのまま収入のない1年です。
もうひとつ、6年制の新卒は出願者8,856人に対して受験者は7,781人でした(厚労省 資料1)。出願したのに受験していない人が1,000人以上います。
私立は6年で受かるのが56.8%
入学した人が6年でどうなったかは、文科省の修学状況等の調査で分かります。2019年度に6年制へ入学した人の結果です。
- 私立:6年で卒業 65.8%
- 私立:6年で国試合格 56.8%
- 国立:6年で卒業 88.4%
- 国立:6年で国試合格 80.0%
私立では、入学者の4割以上が6年ちょうどでは薬剤師になれていないことになります。留年や退学、卒業後の浪人が含まれるからです。
この表は大学ごとにも公表されています。志望校を比べるときは偏差値や学費だけでなく、その大学の「6年で卒業した割合」と「6年で国試に受かった割合」を見てください。30代にとっては、ここが一番お金に直結します。
30代後半〜40代の新卒薬剤師を採用する側の見方
「卒業しても、その年齢で雇ってもらえるのか」は気になるところだと思います。ここからは、一次面接をする管理薬剤師としての考えです。統計ではなく、僕が面接の場にいたら何を見るかの話として読んでください。
年齢だけで落とす理由は薄い
店で欠員が出たとき、僕が本部に上げるのは「欠員の理由」「希望する時間帯」「常勤かパートか」の3点です。年齢はこの中に入っていません。現場が困っているのは、決まった時間帯に薬剤師が立てないことだからです。
とくに地方や病院は、薬剤師が足りない地域として国の指標にも出ています(薬剤師の人手不足と飽和の実態)。免許があってシフトに入れる人は、年齢にかかわらず面接の土俵に乗ると考えています。
面接で僕が見るところ
30代後半〜40代の新卒の人が来たら、僕が確かめたいのは次の4つです。
- 年下の先輩に素直に聞けるか
- 前職の経験をどう話すか
- 立ち仕事と遅番に入れるか
- 勤務地と時間の融通
一番気にするのは1つ目です。調剤の手順も薬歴の書き方も、最初は20代の先輩から教わることになります。そこで前職のやり方を持ち込むより、まず店のやり方を覚えてくれる人のほうが、教える側は安心できます。
一方で、接客や事務、部下をまとめた経験は、患者さんへの説明や在庫・シフトの管理で役に立つ場面があると思います。面接では「何ができます」より、その経験を薬局のどこで使えそうかを具体的に話してもらえると判断しやすいです。
給料は年齢より経験年数
新卒の給料は、年齢が上でも新卒の水準から始まると考えておいてください。前職の年収は、薬剤師の給料にはほとんど反映されないのが普通だと思います。
目安として、厚労省の令和6年賃金構造基本統計調査では、経験1〜4年の薬剤師の年収は約493万円です(残業代を除く)。僕の1年目は地方の門前薬局で約380万円と、この平均より低めでした(薬剤師1年目の給料・年収)。
経験を積んだあとの年収は薬剤師5年目の給料・年収にまとめています。僕が管理薬剤師になったのは薬剤師8年目です。仕事の中身は管理薬剤師の仕事内容と1日を見てください。
30代から薬剤師を目指すか決める前に確かめること
ここまでの数字を踏まえて、入学を決める前に確かめておきたいことを順番に並べます。
- 家計が6〜7年もつか
- 理系科目を学び直せるか
- 志望校の卒業率と合格率
- 家族が同じ見通しか
- 薬剤師の仕事を知っているか
家計は6年ちょうどではなく、留年や浪人の1年を足して見ておくほうが安全です。家族がいる人は、収入がなくなる期間を具体的な金額で共有しておくと、途中で揉めにくくなります。
最後の「仕事を知っているか」も大事です。僕が薬剤師を目指したきっかけは、高校生のころ薬を10種類以上飲んでいた祖母に、かかりつけの薬剤師さんがかみ砕いて説明してくれていた姿でした。ただ実際の仕事は、調剤と監査、薬歴、在庫、保険のルールとの付き合いが大半です。なる前の印象と仕事の実態の差は薬剤師になりたい理由に書いています。
薬学部に行かない選択肢
「薬に関わる仕事がしたい」が一番の理由なら、6年と数千万円をかけない道もあります。登録販売者試験は学歴や実務経験を問わず受験でき、一般用医薬品の一部を販売できます。薬局で働く調剤事務という仕事もあります。
どちらも薬剤師の代わりにはなりません。調剤や処方薬の説明は薬剤師の仕事です。それでも、薬局の現場を内側から見てから薬学部を決める、という順番はありだと思います。
薬剤師免許はあるけど現場未経験の30代の場合
ここまでは免許がない人の話でした。薬学部を出て免許は持っているけれど、研究職や長いブランク、海外暮らしで薬局や病院の現場に立ったことがない30代なら、状況はまったく違います。
免許がある以上、未経験でも採用の対象です。面接では「未経験者を受け入れたことがあるか」「最初の数か月は誰が教えるか」「研修はあるか」を聞いて、即戦力前提の店は避けるのが安全です。
不安が強いなら、パートで入って慣れてから常勤に切り替える方法もあります。準備の進め方は薬剤師ブランク復職ブログ、時給の目安は薬剤師パートの時給相場にまとめています。
30代から薬剤師を目指す人のよくある質問
- 働きながら薬学部に通えますか?
現実的ではありません。授業と実験は昼間で、5年生には薬局と病院の実務実習もあります。仕事を辞めて学生に戻る前提で、家計を組んでおくほうが安全です。
- 文系出身でも薬学部についていけますか?
入れるかどうかより、入学後の化学・生物で苦しくなりやすいと思います。入試の前に高校の化学と生物を学び直しておくと、1〜2年生の負担がかなり違います。
- 40代から目指すのは遅すぎますか?
制度上の年齢制限はありません。ただ40歳で入学すると就職は46歳で、65歳まで働いても約19年です。学費と6年分の収入を取り戻すのはさらに難しくなるので、お金以外の理由がはっきりしているかが大事です。
- 薬学部の4年制に入っても薬剤師になれますか?
なれません。国家試験を受けられるのは6年制課程の卒業者です。同じ薬学部でも4年制の学科は研究者などを育てる課程なので、出願前に学科を必ず確かめてください。
- 国家試験は一度落ちるとどのくらい難しくなりますか?
第111回では6年制の新卒86.25%に対して、既卒は41.33%でした。30代にとって浪人の1年は収入のない1年なので、新卒の1回で受かる前提で6年生の1年間を使うのが大切です。
- 卒業時に30代後半でも就職できますか?
免許があってシフトに入れるなら、年齢だけで門前払いされることは少ないと思います。一次面接をする立場としては、年齢より、年下の先輩に素直に教わる姿勢があるかを見ます。
- 免許はあるけど現場に立ったことがありません。雇ってもらえますか?
免許があれば採用の対象です。「未経験者の受け入れ実績」「教える担当」「研修の有無」を面接で聞いて、即戦力前提の店を避けると入りやすくなります。
30代から薬剤師を目指す前に知っておきたいことのまとめ
30代からでも薬剤師にはなれます。ただ道は薬学部6年制だけで、30歳入学ならストレートでも36歳からのスタートです。
- 学費は国立約350万・私立約1,090万
- 30代は6年分の収入が一番重い
- 私立は6年で国試合格が56.8%
- 採用では年齢より教わる姿勢
お金だけで比べると割に合わない人が多いのは事実です。そのうえで目指すなら、志望校の「6年で卒業・合格した割合」を確かめて、留年しない前提で6年間を組んでください。卒業してシフトに入れる薬剤師になれば、面接の場で年齢を理由に門前払いする管理薬剤師は多くないと、僕は思っています。

