病院薬剤師のあるあるといえば、夜間・休日の当番、鳴り続ける院内PHS、医師への疑義照会の緊張、クリーンルームでの無菌調製あたりが定番です。
ただ、どれも「どの病院でも同じ」ではありません。日本病院薬剤師会の調査では、平日夜間に薬剤部の体制がある病院は500床以上で91.9%、20〜49床では10.6%でした。あるあるの多くは、病院の規模で起きたり起きなかったりします。
僕は管理薬剤師のたろうで、薬剤師歴10年目の34歳です。働いてきたのは調剤薬局とドラッグストア併設の調剤薬局だけで、病院で働いた経験はありません。
なのでこの記事は、病院の中の人の体験談ではなく、日本病院薬剤師会や厚労省の公開データから「よく言われるあるある」を一つずつ確かめる読み物です。調剤薬局の側から見た違いも書きます。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
詳しい筆者の経歴はこちら
病院薬剤師の「働き方」あるある
まずは勤務の仕組みまわりです。薬局と比べていちばん違うのは、病院が24時間・365日動いている点だと思います。
夜も休日も薬剤部が動く
「当直明けは妙にテンションが上がる」は、病院薬剤師のあるあるとしてよく目にします。ただ、そもそも当直があるかどうかは病院によってまるで違います。
日本病院薬剤師会の2022年度の調査(回答3,508施設)では、薬剤部に平日夜間の勤務体制がある病院は全体の45.2%でした。病床数で分けると次のとおりです。
| 病床数 | 平日夜間の体制あり | 休日の体制あり |
|---|---|---|
| 20〜49床 | 10.6% | 18.8% |
| 50〜99床 | 15.9% | 25.5% |
| 100〜299床 | 37.4% | 52.5% |
| 300〜499床 | 75.1% | 82.6% |
| 500床以上 | 91.9% | 95.2% |
体制の中身も違います。500床以上で夜間体制がある病院では、宿直が74.1%、二交代制が20.7%でした。一方、100床未満ではオンコール(自宅で待機し、呼ばれたら出る)が7割台と中心です。
つまり「当直明けのあるある」は、主に大きな病院の話です。小さな病院では、夜は泊まり込まずに自宅で呼び出しに備える形が中心になります。
僕は薬局勤めなので、当直は一度もしたことがありません。ドラッグストア併設の調剤薬局にいたころは週の半分が遅番で、閉店後の品出しで夜10時になる日もありました。それでも、夜通し病院にいる働き方とは別物だと思います。
院内PHSが鳴り止まない
もう一つの定番が、院内PHS(院内用の携帯電話)です。病棟の看護師、医師、外来と、問い合わせの相手が院内じゅうにいます。
内容は「この点滴とこの点滴、同じルートで入れていいか(配合変化)」「一緒に飲ませて大丈夫か」「この薬、もうできていますか」などがよく挙がります。注射薬を混ぜている最中でも、電話は待ってくれません。
薬局にも電話はかかってきます。ただ相手はほぼ患者さんか門前のクリニックで、院内の何部署から同時に呼ばれる、という状況はありません。電話の密度は、病院のほうがずっと高いはずです。
院内で薬剤師は少数派
「病院の中で薬剤師は影が薄い」というあるあるも、数字で見るとうなずけます。
厚労省の令和6年の統計では、届け出た薬剤師のうち薬局で働く人が197,437人(60.0%)なのに対し、病院で働く人は57,595人(17.5%)でした。薬剤師の中でも、病院勤めは少数派です。
病院の中でも人数は多くありません。先ほどの日病薬の調査では、薬剤師が1人の病院が200施設、2〜4人の病院が1,256施設ありました。回答した病院の約4割が、薬剤師4人以下で回していることになります。
医師や看護師に比べて人数が少ないので、院内の行事や会議で薬剤部だけ少人数、という場面は想像しやすいです。少人数の病院ほど、一人が受け持つ業務の幅も広くなります。
病院薬剤師が見た医師・チーム医療まわりのあるある
次は人との関わりです。薬局の薬剤師が日々やりとりするのは、主に患者さんと処方元の医療機関です。病院薬剤師は、それに加えて医師・看護師・他の職種と同じ建物で一日じゅう連携します。
疑義照会の前に深呼吸
処方に疑問があれば医師に確認するのは、薬剤師の法律上の義務です(薬剤師法24条)。それでも、忙しそうな医師に電話をかける前は一瞬ためらう。これは病院でも薬局でも共通のあるあるだと思います。
僕も薬局で疑義照会をしますが、相手はクリニックの医師で、電話越しのやりとりがほとんどです。病院だと同じ院内にいる医師なので、顔を合わせて話す場面も増えます。距離が近いぶん、言い方に気をつかう場面も多いのではと想像します。
とはいえ、確認した結果、医師の意図が分かって納得することもあれば、入力ミスが見つかることもあります。言いにくくても確認するのが、薬剤師の仕事の芯の部分です。
管理薬剤師たろう聞きにくい確認ほど、あとで「聞いてよかった」になりますね
カンファで発言を求められる
病院薬剤師は、医師・看護師・管理栄養士などが集まるカンファレンス(治療方針を話し合う場)や、院内のチームに参加します。そこで「薬の面から何かありますか」と振られる、というのが定番のあるあるです。
日病薬の調査で、チームがある病院の割合は次のとおりでした。
- 感染制御チーム:78.7%
- 栄養サポート(NST):61.9%
- 抗菌薬適正使用:42.8%
- 緩和ケアチーム:33.0%
チームごとに求められる役割は違いますが、腎機能に合わせた投与量や相互作用など、薬剤師にしか言えない一言があります。その一言を用意して会議に出る、というのが病院らしいところです。
薬局でも在宅の患者さんではケアマネジャーや訪問看護師とやりとりしますが、同じ部屋で治療方針を話し合う機会はそう多くありません。
採用薬と持参薬の板挟み
病院には採用薬(その病院で使うと決めた薬のリスト)があり、何でも置けるわけではありません。「この薬、うちにある?」と聞かれて、ないと答えるのは薬剤部の役目になりがちです。
そこでよく出てくるのが、入院時に患者さんが持ってくる持参薬です。日病薬の調査では、持参薬を薬剤師が確認している病院が89.6%でした。採用していない持参薬を入院中に一部使っている病院も、672施設ありました。
他院の処方をそのまま続けるか、採用薬に切り替えるか。代わりに使える同じ種類の薬をすぐ提案できるかが、病院薬剤師の腕の見せどころです。
薬局は在庫にない薬でも、卸から取り寄せて翌日にお渡しできることが多いです。「採用」という枠がある分、病院のほうが制約は強いと感じます。
病院薬剤師の病棟・調製業務のあるある
ここは調剤薬局にはほとんどない領域です。注射薬の調製や、血中濃度をもとにした投与設計など、病院ならではの仕事が並びます。
無菌調製でクリーンルーム
注射薬を点滴に混ぜる無菌調製は、病院薬剤師の代表的な仕事です。クリーンベンチや安全キャビネットの中で、汚染を防ぐ手順を守って行います。抗がん剤や高カロリー輸液の調製は、とくに神経を使う作業です。
ただ、これも全病院の仕事ではありません。日病薬の調査で無菌調製を実施している病院は全体の51.5%でした。500床以上では94.0%ですが、20〜49床では12.0%です。
「病院に行けば無菌調製ができる」とは限らないので、やりたい人は応募先で実施しているかを確かめたほうがいいです。
TDMで血中濃度とにらめっこ
TDM(治療薬物モニタリング)は、血液中の薬の濃度を測って投与量を調整する仕事です。抗菌薬などで、効き目と副作用のバランスを取るために行います。
日病薬の調査では、TDMを実施している病院は67.7%、500床以上では97.3%でした。実施している病院のうち83.3%は、解析を薬剤部門が担っています。
検査値を見ながら「次の投与量をどうするか」を医師に提案する。薬局では検査値を見る機会はあっても、投与設計まで踏み込むことはまずありません。
患者さんの名前を覚える
病棟を担当すると、入院中の患者さんに何度も顔を合わせます。名前と顔、飲んでいる薬まで自然に覚える、というのもよく挙がるあるあるです。
その分、容態が悪くなった患者さんのことが気持ちに残りやすい、という重さもあると思います。距離が近い仕事ならではの表と裏です。
薬局だと一期一会に近い患者さんも多いですが、ずっと通ってくれる人もいます。僕は今の薬局でかかりつけ薬剤師をしていて、多いときは同意をいただいた患者さんが約30名いました。付き合う期間の長さで言えば、薬局にも病院とは別の深さがあります。
病院薬剤師の給料・待遇のあるある
「病院は給料が安い」は、病院薬剤師のあるあるとして一番よく見る話かもしれません。ここは公的データで確かめておきます。
「給料が安い」は本当か
厚労省の第25回医療経済実態調査で、常勤1人あたりの平均(給料+賞与)を見ると次のとおりです。
| 区分 | 年収の平均 |
|---|---|
| 病院の薬剤師 | 約581万円 |
| 薬局の薬剤師 | 約479万円 |
| 薬局の管理薬剤師 | 約725万円 |
平均で見ると、病院の薬剤師は薬局の薬剤師より高めです。ただしこれは全年齢の平均で、夜間や休日の手当も含みます。
それでも「安い」という声が根強いのは、若いうちの給料の印象が強いからだと思います。日病薬の調査では、新卒薬剤師の給与・手当(月額)は全体で約23.6万円、500床以上の病院では約22.7万円という集計でした。大きな病院ほど初任給が高い、というわけではありません。
給与の決め方も関係していそうです。同じ調査で、500床以上の病院の約6割は国家公務員か自治体の給与体系に準じていました。年次で少しずつ上がる仕組みだと、若手のうちは伸びを感じにくいはずです。
ちなみに僕は、新卒の調剤薬局Aが年収約380万円スタートで、4年目で420万円でした。薬局も最初から高いわけではありません。業態で比べるより、応募先の基本給・手当・夜間の回数をセットで見るほうが確実です。
週休2日とは限らない
休みの取り方も病院ごとに違います。日病薬の調査で、常勤薬剤師の週休制は次のように分かれていました。
- 完全週休2日制:50.9%
- それより休みが少ない:22.1%
- 週休1日か1日半:4.9%
「それより休みが少ない」には、月3回だけ週休2日や、4勤務1休といった形が入ります。土日のどちらかに出る当番がある病院も多いので、休日の数と曜日は求人票だけでなく面接でも確かめたいところです。
- 平均年収は病院が薬局より高め
- 若手の月給は差がつきにくい
- 完全週休2日は約半数
病院薬剤師から見た調剤薬局あるあるとの違い
ここからは、調剤薬局で働く僕の側から比べてみます。同じ薬剤師でも、共通するあるあると、まったく違うあるあるがあります。
| 病院 | 調剤薬局 | |
|---|---|---|
| 主な相手 | 医師・看護師・他職種 | 外来の患者さん |
| 夜間・休日 | 規模によって当番あり | 営業時間内が中心 |
| 扱う薬 | 注射薬・抗がん剤も | 門前の診療科が中心 |
| 電話の相手 | 院内の各部署 | 患者さん・医療機関 |
似た名前の薬で冷や汗
これは病院も薬局も共通の鉄板あるあるです。アモキシシリンとアンピシリン、ノルバスクとノルバデックスのように、名前の似た薬は本当に多いです。
昔はアマリール(糖尿病の薬)とアルマール(高血圧などの薬)の取り違えが問題になり、アルマールは一般名のアロチノロール塩酸塩に名前が変わりました。
僕も薬局で、棚の近くに置かれた似た名前の薬は、毎回指差しで確かめています。病院はそこに注射薬やアンプルが加わるので、確認の種類はさらに増えるはずです。
接客があるかないか
大きく違うのが、窓口での接客の比重です。調剤薬局は、薬を渡しながらの服薬指導が仕事の中心です。待ち時間が長い日は「まだですか」と声をかけられることも珍しくありません。
病院薬剤師は、外来の窓口より病棟や他職種とのやりとりが中心になります。入院患者さんへの説明はありますが、カウンター越しに次々と患者さんを迎える働き方とは違います。
人とどう関わりたいかで、向き不向きがはっきり分かれる部分です。



接客が好きか、専門業務に集中したいかで選べばいいんですね
扱う薬の幅が全然違う
病院は入院患者さんのあらゆる治療に対応するので、注射薬や抗がん剤、麻薬まで扱います。診療科の数だけ薬の幅が広がります。
調剤薬局は、門前の医療機関の診療科に合わせた薬が中心です。僕が新卒で入った薬局Aは内科クリニックの門前で、生活習慣病の薬にはかなり詳しくなりましたが、抗がん剤の注射に触れることはありませんでした。
深く狭くの薬局、広く扱う病院。どちらが上ということではなく、身につく知識の形が違います。
病院薬剤師のあるあるを調剤薬局の管理薬剤師が見て思うこと
ここまでのあるあるを並べて感じるのは、病院薬剤師の大変さも面白さも、病院の規模と機能でかなり変わるということです。
大きな病院なら当直・無菌調製・TDM・チーム医療がそろいます。小さな病院や療養型なら、夜間の体制がないところも多く、少人数で幅広い業務を受け持ちます。「病院薬剤師あるある」は一つではありません。
僕のキャリアは、調剤薬局A(新卒・4年)→ドラッグストア併設の調剤薬局B(月残業45時間)→調剤薬局C(2ヶ月で退職)→今の調剤薬局D、という流れです。転職3回のうち2回は失敗しました。
2回目の失敗は、長いあいだ求人票のせいだと思っていました。でも本当は、早く前の職場を抜けたくて、職場見学を自分から断っていたんです。働く場所の中身を確かめなかったのは僕でした。
今は管理薬剤師として、欠員募集の求人を出す側と一次面接をする側もやっています。その立場から見ても、夜間の回数や薬剤師の人数のような「一番知りたいこと」ほど求人票には書かれにくいです。
このあるあるを読んで病院に興味が湧いたなら、自分に合うかを先に確かめておくと安心です。向き不向きは病院薬剤師に向いている人・向いていない人で、夜間体制や年収のデータと一緒にまとめています。
応募先の夜間体制や休日の当番、無菌調製の有無は、個人では聞きにくいこともあります。転職エージェント経由で確認してもらう方法もあり、たとえばファゲットは、公式サイトで中小の調剤薬局と病院の求人を強みとして挙げています。
業態ごとの違いや転職の進め方は薬剤師の転職の進め方に、エージェント各社の特徴は薬剤師転職エージェントのおすすめにまとめています。
病院薬剤師あるあるに関するよくある質問
- 病院薬剤師は本当に給料が安いんですか?
-
平均では安くありません。厚労省の第25回医療経済実態調査では、病院の薬剤師が約581万円、薬局の薬剤師が約479万円でした。ただし全年齢の平均で夜間の手当も含むので、若手の給料や応募先ごとの条件は個別に確かめてください。
- 病院薬剤師には必ず当直があるんですか?
-
病院によります。日本病院薬剤師会の調査では、薬剤部に平日夜間の体制がある病院は500床以上で91.9%、20〜49床で10.6%でした。小さな病院ではオンコール(自宅待機)が中心です。回数や明けの扱いは面接で確認してください。
- 病院から調剤薬局に移ると給料は上がりますか?
-
応募先によります。平均では薬局の薬剤師より病院の薬剤師のほうが高い一方、薬局の管理薬剤師は平均約725万円でした。移るなら、基本給・手当・残業の見込みを並べて比べるのがおすすめです。
- 病院で専門性を深める方法はありますか?
-
日本病院薬剤師会は、感染制御・がん・精神科・妊婦授乳婦・HIV感染症の各分野で専門薬剤師・認定薬剤師の制度を設けています。条件は日本病院薬剤師会の制度ページで確認できます。取得支援があるかは応募先で聞いておきましょう。
あるあるとして笑える話ばかりではなく、夜間の当番や人手不足が続いて本当にしんどい、という人もいると思います。
もう限界かも、という人は病院薬剤師を辞めたいのは逃げじゃないで出口を整理しています。
病院薬剤師あるあるのまとめ:多くは病院の規模で変わる
病院薬剤師のあるあるを、公的データで確かめてきました。
夜間の当番、無菌調製、TDMは、大きな病院ほど当たり前になり、小さな病院では少なくなります。「給料が安い」は平均で見ると当てはまらず、休みの取り方は病院ごとにばらばらでした。
あるあるに「わかる」と笑えた人も、「病院ってこういう世界なんだ」と興味が湧いた人もいると思います。病院で働いてみたくなったら、規模や機能で自分に合う病院を絞り、夜間の回数や休日の当番を確かめてから選んでください。
- 夜間の当番は大病院ほど多い
- 院内で薬剤師は少数派
- 無菌調製は約半数の病院で
- 平均年収は薬局より高め
- 週休2日とは限らない
- 合う病院は規模で選べる






