内定の返事を待たれているのに、書面が1枚も届かない。「契約書は初日に署名してもらいます」と言われて、本当にこのまま今の職場に退職を伝えていいのか、手が止まっているのではないでしょうか。
僕は地方の調剤薬局で管理薬剤師をしている、たろうです。薬剤師歴10年、転職は3回して2回失敗しました。そして今は、うちの店で欠員が出たときの応募者の一次面接をする側にいます。
先に結論を書きます。雇用契約書が入職前に届かないこと自体は、それだけで違法とは言えません。ただし労働条件を書面で明示することは会社の義務です。この2つは別物で、混ざったまま催促すると話がかみ合いません。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
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薬剤師が入職前に雇用契約書をもらえないのは、それだけで違法とは言えません

知りたいところから答えます。労働基準法が会社に求めているのは「労働条件の明示」であって、双方が署名押印した契約書を作ることではありません。雇用契約書という様式そのものは、法律上の必須書類ではないのです。
だから「契約書はまだですか」と聞いても、相手の受け止めは「入職日に署名してもらう予定ですが」で止まります。悪意なくそう答えている会社が、実際にかなりあります。
一方で、労働条件の明示には期限があります。明示のタイミングは労働契約の締結時です。入職してから1か月後に渡す、という運用は明示義務の考え方から外れます。
悩む男性じゃあ、入職日当日に渡されるのはセーフなんですか…?



法律の話としてはそうなります。ただ、あなたが困るのはそこじゃないですよね。
初日に書面を見て条件が違っていても、そのときにはもう現職を辞めています。読者が本当に必要なのは違法かどうかの判定ではなく、退職を切り出す前に条件を紙で確かめることのはずです。この記事はそこに寄せて書きます。
薬剤師が受け取る雇用契約書と労働条件通知書は、役割が違います


催促がかみ合わない原因は、たいていここの混同です。名前が似ているので、違いを先に整理しておきます。
雇用契約書は署名で合意を残す書面
雇用契約書は、会社と働く人が同じ内容に合意したことを2通で残すための書面です。作るかどうかは会社の運用次第で、作らない会社もあります。
ないと困るのは、あとで「言った・言わない」になったときです。とはいえ、入職前に署名までそろえてくれる薬局は多数派ではありません。ここを基準に「危ない会社かどうか」を判定しないほうがいいです。
労働条件通知書は明示義務にひもづく
こちらが本命です。厚生労働省の解説によると、労働契約の締結時に書面で明示しなければならない事項が決まっています。
- 労働契約の期間
- 有期契約を更新する基準
- 就業の場所と従事する業務
- 始業終業・休憩・休日・休暇
- 賃金の決定・計算・支払方法
- 退職に関する事項
4番の「所定労働時間を超える労働の有無」も、この枠の中に入っています。薬剤師の求人でよく問題になる残業の有無は、口約束ではなく書面に載る項目だということです。
だから催促するときは「契約書をください」ではなく、「労働条件通知書をいただけますか」と書面の名前で伝えてください。人事の担当者にはこの言葉のほうが早く通じます。
メールやPDFで届いてもよい条件
紙で郵送されないと違反、というわけでもありません。厚生労働省は、働く人が希望した場合に限り、FAX・電子メール・SNSのメッセージ機能などでの明示を認めています。
ただし条件があって、受け取った側が出力して書面を作成できるものでなければなりません。画面で消えていくやり取りは想定されていない、ということです。
つまり「郵送は入職後になります」と言われたときは、こちらから「PDFで先にいただけますか」と希望を出せば筋が通ります。催促ではなく希望の表明になるので、切り出しやすいはずです。
2026年現在、薬剤師が確認する明示事項には「変更の範囲」が入っています


2024年4月1日から、明示しなければならない事項が追加されました。薬剤師の転職でいちばん効いてくるのはここなので、具体に翻訳しておきます。
就業場所の変更の範囲は異動の話
厚生労働省の無期転換ポータルサイトによると、就業場所・業務の変更の範囲の明示はすべての労働契約の締結時と、有期契約の更新時ごとに必要で、対象はすべての労働者です。パートでも派遣でも常勤でも関係なく対象になります。
ひとつ注意があります。派遣で働く薬剤師の場合、労働条件を明示するのは雇用主である派遣会社です。派遣先の薬局に催促しても書面は出てきません。就業場所の変更の範囲も、派遣会社との契約の中で読むことになります。
この「変更の範囲」は、入った直後の勤務先だけでなく、契約期間中に配置転換で動きうる範囲まで含んだ書き方になります。薬剤師の言葉に直すと、応援や異動でどこまで飛ぶ可能性があるのか、ということです。
「自宅から15分の店舗」で応募したのに、変更の範囲が県内全域と書かれていることは普通にあります。それが悪いわけではなく、書いてある範囲は起こりうると読むための項目です。通勤時間を条件に選んだ人ほど、ここを先に見てください。
業務の変更の範囲は在宅やOTC
業務のほうも同じ考え方です。調剤で入ったつもりが、変更の範囲に在宅訪問やOTC販売、レジ応援まで含まれているかどうかが読み取れます。
在宅対応のある薬局は増えていて、入職後に担当が回ってくること自体は珍しくありません。問題は、それを知らずに入って「聞いていない」となることです。在宅の実務がどこまで含まれるかを事前に確かめたい人は、在宅対応の薬剤師に求められる条件のほうも見ておくと、質問が具体的になります。
有期契約は更新上限なども対象
パート・契約社員・派遣で有期契約を結ぶ薬剤師には、さらに項目が足されます。同じく厚生労働省の無期転換ポータルサイトの整理です。
- 更新上限(締結時と更新時ごと)
- 無期転換を申し込める機会
- 無期転換後の労働条件
後ろの2つは、無期転換の申込権が発生する更新のタイミングごとに明示されます。いま結ぶ1回目の契約で全部が書かれるわけではないので、そこは誤解しないでください。
求人票と条件が変わるとき、薬剤師には変更内容が明示されます


ここまでは労働基準法の側の話です。実は、求人の側にも別のルールがあります。
職業安定法では、労働者を募集するときにも労働条件の明示が義務づけられています。そして厚生労働省の労働局の案内では、面接などの過程で当初明示した労働条件が変更になる場合は、その変更内容を速やかに明示する必要があるとされています。
2024年4月からは、募集の段階でも「業務の変更の範囲」「就業の場所の変更の範囲」「有期契約を更新する基準」を示すことになりました。求人票と通知書は、別々の書類でありながら地続きだということです。
だから、あなたが手元でやるべきことは単純です。求人票を消さずに保存して、届いた通知書と並べる。違っていたら、変わった理由を聞く。これは制度上おかしな要求ではありません。
求人票そのものの読み方でつまずいている人は、求人票のアットホームという表現をどう読むかを先に読んでおくと、並べたときに見るべき行が分かります。休日の数え方に不安がある人は年間休日120日の内訳の確かめ方のほうです。
管理薬剤師の僕から見ると、店に催促しても書面は出てきません


ここは一次情報として書きます。応募先の店舗に催促しても進まない理由があります。
僕の会社では、欠員が出たときに求人原稿を作るのは本部です。店から本部に上げるのは「欠員の理由」「希望する勤務時間帯」「常勤かパートか」の3点だけで、文面を書き換える権限は店にありません。上がってきた原稿を見て「うちの残業はこんなに少なくないけどな」と思ったことはありますが、僕が直せるものではないのです。
一次面接は僕が担当します。つまり応募者が顔を合わせる相手と、書面を出す部署が別ということです。面接の場で「契約書はまだですか」と聞かれても、僕は日付を答えられません。



じゃあ、催促すると印象が悪くなりませんか?



少なくとも僕は、条件を紙で確かめたい人を警戒したことはありません。
面接する側から見ると、条件を曖昧なままにして入る人のほうが心配です。半年後に「思っていたのと違う」で辞めるのは、本人にとっても店にとってもいちばん痛い結末だからです。
ただ、これは僕の会社の話であって、全部の薬局が同じ作りではありません。個人薬局なら経営者が全部やっていることもあります。大事なのは誰に聞けば書面が出るのかを早めに特定することです。
薬剤師が入職日までに確認する順番と、角の立たない聞き方


ここからは手を動かす部分です。退職を切り出す前に、この3つだけやってください。
まず書面が届く日付を聞く
「まだですか」は相手を責める形になるので、日付を尋ねる形にします。そのまま送れる文面を置いておきます。
内定のご連絡をありがとうございます。現職へ退職の相談をする前に条件を確認しておきたいので、労働条件通知書をいただける時期を教えていただけますでしょうか。郵送が入職後になる場合は、先にPDFでお送りいただけると助かります。
承諾の返事を急かされている場合は、返事そのものを止める必要はありません。止めるのは現職に退職を伝える日のほうです。承諾の意思は先に伝えたうえで、「条件の書面を確認してから退職の手続きに入ります」と順番を添えておくと、相手を待たせずに自分の逃げ道も残せます。
ポイントは、退職の相談を理由にしていることです。催促の動機がはっきりしていると、事務の手続きとして処理されます。書面の名前を「労働条件通知書」と正しく書いているのも効きます。
求人票との差分を1枚にする
届いたら、求人票と並べて違う行だけ書き出します。全部を読み込む必要はありません。見るのはこの5つです。
- 基本給と手当の内訳
- みなし残業の有無と時間数
- 就業場所の変更の範囲
- 業務の変更の範囲
- 試用期間の長さと条件
年収の話でいちばん揉めるのは、基本給と手当の切り分けです。同じ年収でも、賞与や残業代の計算の土台が変わります。試用期間中だけ条件が違う書き方になっていることもあるので、試用期間の扱いと確認しておく点もあわせて見てください。
書面にない3点を口頭で聞く
通知書には書かれないけれど、入ってから効いてくる項目があります。僕が応募者の立場なら、この3つを聞きます。
- 常勤の薬剤師が今何人か
- 欠員補充か増員か
- 前任者がいつ辞めたか
聞いた答えは、日付とあわせてメモに残してください。書面に載らない話は記憶から消えます。入職直後の違和感をどう扱うかは、入社初日の不安が当たった回と外れた回に書いたとおりで、メモがあると自分の判断を後から検証できます。
書面がそろっても、薬剤師には見えない部分が残ります


ここは自分の失敗の話です。僕は30歳のとき、入社2か月で辞めた薬局があります。長いあいだ「求人票に騙された」と言っていました。
でも、あとで読み返して分かったのは、あの求人票に嘘は1行も書かれていなかったということです。条件面の記載と実際の労働条件は一致していました。決定的だったのは書かれていたことではなく、書かれていなかったことのほうでした。
常勤が何人いるのか。今回の募集が欠員補充なのか増員なのか。前の人がいつ辞めたのか。どれも書面の項目にはありません。そして僕は、職場見学の提案を「日程が合わない」と自分から断っていました。騙されたのではなく、確かめなかったのです。
だから書面は必要条件であって、十分条件ではありません。紙がそろったら安心、ではなく、紙で確かめられる範囲はここまでと線を引いてから、残りを人に聞くしかないと思っています。
その残りを、自分で薬局に直接聞くのがしんどい人もいます。転職エージェント経由なら、書面の催促も条件の差分の確認も担当が間に入ってくれるので、内定先と直接やり合わずに済みます。薬剤師の求人を扱うファゲットのようなサービスなら、最初に「労働条件通知書を入職前にもらいたい」と伝えておく使い方ができます。
断っておくと、僕はこのサービスを転職で使った本人ではありません。運営元と条件を調べたうえで紹介しています。僕が実際に使った5社の話と、いま申し込める会社の比較はエージェントを使い比べたレビュー記事のほうに分けてあります。エージェントを使うかどうかで迷っている人は、エージェントを使わない選択肢も読んでから決めてください。
薬剤師の雇用契約書についてよくある質問


同僚やDMで実際に聞かれたものに答えておきます。
- 雇用契約書をもらえないのは違法ですか?
雇用契約書という様式そのものは、法律が必ず作れと求めているものではありません。義務になっているのは労働条件の明示のほうで、契約期間・就業場所と業務・労働時間や休日・賃金・退職に関する事項などは書面の交付が原則です。ですから「契約書がない」ことより「労働条件が書面で示されていない」ことのほうを問題にしてください。
- 入職日に渡すと言われました。待つべきですか?
明示のタイミングは労働契約の締結時なので、初日の交付が直ちに問題になるわけではありません。ただ、その時点であなたは現職を辞めています。条件が違っていても戻れないので、退職を切り出す前にPDFでもよいので内容を確認させてほしい、と希望を出すほうが安全です。
- メールのPDFだけでも有効ですか?
働く人が希望した場合には、FAXや電子メール、SNSのメッセージ機能などによる明示が認められています。条件は、受け取った側が出力して書面を作成できる形であることです。PDFで届いたら消さずに保存して、できれば印刷しておいてください。求人票のほうも同じように残しておくと、後から並べられます。
- 求人票と金額が違っていました。どうすればいいですか?
募集の過程で当初示した労働条件が変わる場合、その変更内容を速やかに明示することが求められています。ですので「求人票ではこう書かれていましたが、変更になった点を教えてください」と聞くのは正当な確認です。金額そのものより、基本給と手当のどちらが動いたのかを確かめてください。
- 催促したら内定を取り消されませんか?
一次面接をしている立場から言うと、条件を書面で確かめたい人を警戒したことはありません。むしろ曖昧なまま入った人が早期に辞めるほうが、店としては困ります。それでも不安なら、店舗ではなく本部の採用窓口に、日付を尋ねる形で聞いてください。店には書面を出す権限がないことが多いです。
- パートでも通知書はもらえますか?
もらえます。就業場所と業務の変更の範囲の明示は、すべての労働契約の締結時と有期契約の更新時ごとに必要で、対象はすべての労働者とされています。有期契約であれば、更新の基準や更新上限もあわせて確認できます。短時間勤務だから省略されてよい、という扱いではありません。
- 何度頼んでも書面が出てきません。相談先はありますか?
厚生労働省は、各都道府県労働局や労働基準監督署などに総合労働相談コーナーを置いています。募集・採用や労働条件を含む労働問題を無料で相談でき、働く人からの相談も受け付けています。いきなり申告するのではなく、まず自分の状況が相談に値するかを聞く使い方ができます。エージェント経由で応募しているなら、先に担当者へ事実を伝えて催促を代行してもらうほうが早いです。
まとめ:薬剤師は契約書の有無より、条件が紙になっているかを見る


長くなったので、要点を置いておきます。
- 契約書は法律上の必須書類でない
- 義務は労働条件の書面明示
- 催促は通知書の名前で伝える
- 変更の範囲で異動先が読める
- 求人票は消さずに並べて見る
- 書面にない3点は口頭で聞く
面接する側に回って思うのは、入職前に条件を確かめる人ほど、入ってから静かに長く働いているということです。確かめる行為は疑うことではなく、続けるための準備だと思います。
今日やることを1つだけ決めるなら、内定先に労働条件通知書をいただける時期を尋ねるメールを1通送るところまで。現職に退職を伝えるのは、その返事を見てからで遅くありません。
次の職場が、紙と現場の両方であなたに合う場所でありますように。









