薬剤師のワンオペがきついのは、要領や根性の問題ではありません。調剤も監査も投薬も電話も一人に集まり、止めてくれる人も代わってくれる人もいない体制の問題です。
違法かどうかは「処方箋40枚」と「休憩」の2つの線で確かめられます。そのうえで、今のワンオペが一時的な欠員なのか、ずっと続く体制なのかを見分けると、待つか動くかを決めやすくなります。
僕は地方の調剤薬局で管理薬剤師をしているたろうです。28歳から2年、ドラッグストア併設の調剤で働き、月45時間ほど残業していました。いまはスタッフのシフトを組む側にいます。その両方から、きつさの正体と抜け方を書きます。
- 調剤4年→DS2年→調剤4年
- いまは管理薬剤師(34歳)
- 転職を3回経験し、うち2回は失敗。
- 3回目で年収480万→610万にアップ
- 人気転職エージェント5社を全部利用
「同じ失敗をしてほしくない」という思いで、薬剤師のリアルを本音で書いてます。
詳しい筆者の経歴はこちら
薬剤師のワンオペがきついのは、あなたのせいじゃない
一人で調剤・監査・投薬・在庫・電話・クレーム対応をこなすのは、そもそも一人分の仕事量ではありません。人がいないだけで、あなたの仕事が雑になっているわけではないと思います。
管理薬剤師たろう「自分の要領が悪いのかも」と責めてしまう人ほど、ちゃんとやろうとしている人です。
ワンオペのしんどさは、だいたい次の4つに分けられます。
ミスが許されない緊張が途切れない
ワンオペでは自分が最後の砦です。間違えても、誰も途中で止めてくれません。患者さんの体に入るものなので、気を抜ける瞬間がないんですよね。
張りつめたまま一日を終えると、家に帰ってもスイッチが切れにくくなります。一人で監査するときの確認の型や、法令上どこまでが義務かはダブルチェックがない薬局で一人で監査する時の守り方に分けて書いています。
トイレも昼休みも自由に取れない
経験のない人には伝わりにくいのですが、ここがかなり効きます。患者さんが途切れないと、トイレに行くタイミングすら読めません。
昼休みも、処方箋が来れば調剤に戻ることになります。体は座っていても気は休まらないまま、午後が始まる感じです。休憩中の電話番が休憩と言えるのかは、薬剤師の昼休みと電話番の記事で労基法と照らして整理しています。
この逃げ場のなさは、体調を崩した日にいちばんこたえます。代わりがいないと熱があっても店を開けることになるので、体調が悪くても休めないときの考え方も先に読んでおくと少し楽になると思います。
相談できる薬剤師が隣にいない
判断に迷う処方はけっこうあります。疑義照会をするか、用法をどう確認するか。普通なら隣の薬剤師に「これどう思う?」と聞けます。
ワンオペだと、その一言が言えません。全部を自分の頭だけで決めるプレッシャーは、思っているよりずっと重いです。専門の話を誰ともしないまま一日が終わる日が続くと、孤独感もじわじわ積もります。
調剤以外の仕事も一人に乗る
ドラッグストアや併設の調剤では、ここに接客・レジ・品出しが重なります。調剤の途中でOTCの相談に呼ばれ、戻ると処方箋が溜まっている。その繰り返しで、一つの仕事を最後まで続けられないことが疲れの元になります。
自分の店ではなく、他店のワンオペを埋めるために呼ばれることもあります。行き先の勝手が分からないぶん消耗は大きいので、応援勤務を断れるかの線引きは先に知っておいて損がないです。
薬剤師のワンオペは違法?確かめる2つの線
先に答えると、薬剤師が一人で薬局を回すこと自体は違法ではありません。ただ、次の2つを超えていれば話が変わります。
- 1日平均の処方箋が40枚超
- 決められた休憩が取れない
1つ目は、薬局の体制を定めた薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令の第1条です。調剤に従事する薬剤師の数は、前年の1日平均処方箋数を40で割った数以上と決められています(眼科・耳鼻咽喉科・歯科の処方箋は3分の2で数えます)。
これは前年の平均で見る最低ラインです。平均40枚以下でも、特定の曜日や時間帯に一人で処方箋が集中することまでは縛っていません。「基準は満たしている」と「一人でも安全に回る」は別の話です。
2つ目は労働基準法34条です。労働時間が6時間を超えるなら45分以上、8時間を超えるなら1時間以上の休憩を、労働時間の途中に与えることになっています。休憩中も処方箋が来たら戻る約束なら、その時間は休憩と扱われない可能性があります。
ドラッグストアでは、もう一つ知っておきたい点があります。薬機法の第36条の5と第36条の9で、要指導医薬品と第1類医薬品は薬剤師が販売することになっています。薬剤師が一人なら、その人が休憩やトイレで離れるあいだ、調剤も第1類の販売も止まります。休憩が取りにくいのは、気の持ちようではなく仕組みから来ているということです。
DSで2年潰された僕が、仕事を一人で抱えて限界だった話
28歳のとき、新卒から4年いた調剤薬局を出て、年収550万円に惹かれてドラッグストア併設の調剤に移りました。いまでも消したい失敗の一つです。
仕事は調剤だけではありませんでした。OTCの接客、レジ、品出しが重なり、週の半分は遅番。閉店後の品出しで夜10時になる日もあって、残業は月45時間ほどでした。
ここで書いておきたいのは、薬剤師の人数の話ではありません。ワンオペと同じで、一人に仕事が積み上がって、どれも手を止められない状態が毎日続いたことです。



暗い部屋で「俺、何のために年収上げたんだっけ」とつぶやいた夜のことは、今も覚えています。
お金は増えたのに、使う時間も体力も残っていませんでした。結局この職場は2年で抜けています。振り返ると、年収という数字だけで職場を選んだのが間違いだったと思います。
そして抜けるときにも失敗しました。その話は逃げ方の章で書きます。
薬剤師のワンオペが一時的か、ずっと続くかの見分け方
同じワンオペでも、誰かが辞めて穴が空いている「一時的なもの」と、会社がその人数で回すと決めている「恒常的なもの」では、打つ手が違います。前者なら期限つきで待つ意味がありますが、後者は待っても変わりません。
シフトを組む側から見ると、欠員が出たときの流れはこうです。僕の会社では、店から本部に上げるのは「欠員の理由」「希望する勤務時間帯」「常勤かパートか」の3点で、求人の原稿は本部が作ります。人が決まるまでのあいだは、残った人のシフトで埋めるしかありません。新人が一人辞めると、管理薬剤師のシフトの余裕がまるごと消えることもあります。
つまり、欠員のワンオペなら「募集が出ているか」を聞けば先が見えます。上司やエリアマネージャーに確かめたいのは次の4つです。
- 欠員の補充か、元の体制か
- 求人はもう出ているか
- 常勤とパートのどちらか
- それまで応援は入るか
「募集は出していない」「前からこの人数」という答えなら、恒常的なワンオペと考えたほうがいいです。その場合は、何時台にどれだけ処方箋が集中するかを数字で伝えるところから始めます。伝え方は一人の時間帯を減らすために職場に頼めることにまとめています。
薬剤師のワンオペで出る限界サイン
「きついけど、まだやれる」と「もう危ない」の境目は、自分ではなかなか分かりません。次のような状態が続いているなら、一度立ち止まってほしいです。
- 出勤前に胃が痛くなる
- 休日に何もできず一日終わる
- 夜中に仕事を思い出して起きる
- ミスが増えてきた気がする
体に先に症状が出てくる
本人が「まだ平気」と思っていても、体が先に音を上げることがあります。胃痛、頭痛、眠れない、急に涙が出る。こういうのは黄信号です。
僕の場合、体が止まったのはDSのあとに移った薬局でした。出勤前に胃がキリキリして、駐車場に車を停めたまま動けない朝がありました。原因はワンオペではなく人間関係でしたが、限界は体から先に来るのは同じだと思います。
症状が続くなら、仕事の相談より先に受診を考えてください。誰に話せばいいか分からないときは、厚労省の働く人向けメンタルヘルスサイト「こころの耳」に電話・SNS・メールの相談窓口がまとまっています。
ミスへの恐怖が常にある
疲れがたまると注意力が落ちてミスが増え、ミスを恐れてさらに緊張する。この悪循環に入ると抜けにくくなります。
「今日も無事に終わってくれ」と祈りながら出勤しているなら、もう普通の状態ではないかもしれません。あなたが倒れたら、その薬局自体が回らなくなります。自分を守ることは、仕事をちゃんとやることと矛盾しません。
薬剤師がワンオペから逃げる現実的な手順
「逃げる」といっても、要は環境を変えることです。いきなり辞めるより、段階を踏んだほうが失敗しにくいです。
まず職場に1つだけ相談する
最初は上司やエリアマネージャーへの相談です。「きついです」だけだと気持ちの話で終わりやすいので、さきほどの4つの確認に、いつまでに返事がほしいかを添えて伝えます。
変える方法は、増員だけではありません。応援の薬剤師や派遣を入れる、ワンオペの時間帯を短くする、遅番を減らす、人の多い店舗へ異動する。会社によって出せる手は違うので、どれならできるかを聞いてみてください。
「人手不足はどこも同じ」で流されることもあります。それでも一度言っておけば「自分は声を上げた」という事実が残り、次の判断がしやすくなります。期限を過ぎても何も変わらないなら、それが会社の答えです。
改善しないなら環境を変える前提で
相談しても変わらないなら、転職を視野に情報だけ集めておくのがおすすめです。実際に辞めるかは後で決めればいいので、まずは選択肢を持つだけです。
僕の失敗はここでした。DSを1日でも早く抜けたくて次の薬局を決め、2ヶ月で辞めています。長いあいだ求人票のせいにしていましたが、本当は職場見学の提案を「日程が合わない」と自分から断っていました。確かめずに決めると、同じ苦しさをもう一度引きます。
ワンオペがつらい人ほど「とにかく今すぐ抜けたい」となりがちです。次の職場でも一人になる時間帯がないかは、見学と面接で聞けば分かります。聞き方と答えの読み方は転職前の薬局見学で質問すること5つを参考にしてください。
一人で抱えず第三者を使う
迷っている段階でも、転職エージェントに「ワンオペにならない職場を探したい」と伝えておくと、求人票に載らない人員体制を確認してもらえます。自分で聞きにくいことを代わりに聞いてもらえるのは、地味に助かります。
僕は3回目の転職で、職場見学を必ず入れること、過去2回の失敗を担当に全部話すことを決めました。うまくいったのは担当の良し悪しより、自分の選ぶ基準を変えたからだと思っています。
今申し込めるところでは、公式サイトで中小の調剤薬局・病院の求人を強みにしているファゲットや、地方・派遣の求人を扱うMC-ファーマネットがあります。僕自身はどちらも使っていないので、違いは比較記事で確かめてください。合わない担当なら、遠慮なく変更を申し出て大丈夫です。
ワンオペが向く薬剤師・どうしても向かない薬剤師
ワンオペが誰にとってもつらいかというと、そうでもありません。人に気を使うのが疲れる、一人のほうが集中できる、というタイプには合うこともあります。だから「ワンオペ=すぐ逃げろ」とは言いません。
ただ、相談相手がいないと不安、混雑で焦りやすい、責任が重いと体調を崩す。こういう人は無理してワンオペを続けないほうがいいと思います。
向き不向きは性格の問題で、優劣ではありません。人員に余裕のある職場のタイプは職場の選び方の記事に、一人薬剤師を続けるか迷う人向けの話は一人薬剤師がきつい理由にまとめています。
薬剤師のワンオペに関するよくある質問
- ワンオペがきついのは甘えですか?
- 甘えではないです。一人で全業務を回すのは体制として無理が出やすい働き方です。きついと感じるのは自然な反応だと思います。
- 薬剤師のワンオペは違法ですか?
- 一人で回すこと自体は違法ではありません。前年の1日平均処方箋が40枚を超えている、必要な休憩が取れていない、という場合は問題になりえます。
- どのくらいの状態になったら辞めるべきですか?
- 出勤前に胃が痛む、休日に動けない、夜に仕事を思い出して起きる。こうした症状が続くなら、受診と環境を変える準備を考えるサインだと思います。
- 欠員が埋まるまで待つべきですか?
- 求人が出ていて、応援の予定もあるなら、期限を決めて待つ意味はあります。募集が出ていないなら、その人数で回す前提の可能性が高いです。
- ワンオペでミスが怖くてつらいです
- 疲れると注意力が落ち、ミスへの恐怖がさらに緊張を生む悪循環になります。個人の注意力だけの問題ではないので、一人の時間帯と処方箋の枚数を数字にして会社に伝えてください。
- 転職したら今より悪くなりませんか?
- 焦って見学なしで決めると、僕のように同じ失敗をします。見学と面接で一人になる時間帯があるかを確かめれば、リスクはかなり下げられます。
- エージェントに相談するのは辞める決心がついてからですか?
- 迷っている段階で大丈夫です。求人の人員体制や雰囲気を聞くだけでも判断材料になります。辞めるかは後で決めればいいです。
- 担当者と合わないときはどうすれば?
- 遠慮なく変更を申し出ていいです。複数社を比べると、合う担当に当たりやすくなります。僕も転職では5社を使って比べました。
- ワンオペを抜けると年収は下がりますか?
- 職場によります。人員の整った調剤でも年収を保てる求人はあります。希望の年収と「一人の時間帯がないこと」をセットで担当に伝えて探してもらうのが近道です。
まとめ|薬剤師のワンオペがきついなら、まず自分を守っていい
ワンオペがきついのは、あなたが弱いからではなく、一人に全部を背負わせる体制に無理があるからです。まずそこを自分に許してあげてほしいです。
- きついのは体制のせい
- 40枚と休憩で違法かを見る
- 募集が出ているか確かめる
- 体のサインを見逃さない
- 期限つきで職場に相談する
- 見学なしで次を決めない
体を壊す前に、選択肢だけでも持っておいてください。今の職場で潰れる義理はありません。少しでも楽な働き方に近づけることを、同じ薬剤師として願っています。





